一・二・三号生筆頭が塾長室に呼び出されたのは、梅雨が明けようとしていたある晴れた日だった。 何日かぶりの太陽に、剣桃太郎は目を細める。 そして硬く閉ざされた扉の前で大きく息を吸い込んだ。 「押忍!一号生筆頭剣桃太郎入ります!」 始剣が塾長室に入って見たものは、此処では到底在り得ない光景だった。 既に塾長室に入っていた邪鬼と赤石に囲まれ、縮こまっている一人の、 小さな少女。 自分と同い年であろうか。 少女は剣を認め、小さくお辞儀をした。桃もそれに合わせて会釈する。 「来たか、剣よ」 「押忍、邪鬼先輩・・・これは一体」 「全くだな。塾長もヤキが回ったもんだぜ」 ため息交じりに首を横に振った赤石に、桃は事を経緯を尋ねた。 「この娘は塾長の血縁の中で唯一の女でな。塾長も可愛がっていたらしいが・・・ それが仇となって、塾長に敵対する者に命を狙われているらしい」 「それで此処へ?」 赤石の言葉に桃は邪鬼を見る。邪鬼は表情を変えないまま答えた。 「ふっ・・・鬼の江田島でもこの娘の危機は放っておけんと言う訳だ。 江田島の親父は訳あってしばらく日本を離れることになった。 ならばここより安全な場所はあるまい」 確かに、それはそうであろう。 世界有数のあらゆる、とりわけ中国武術に精通した武術家・拳法家の猛者達が集まる男塾だ。 最強のボディーガード軍と言っても過言ではあるまい。 だが問題は、女人禁制の男だらけの男塾にか弱い少女が入るという事実である。 どんな男だって、所詮は狼ということもある。 桃の杞憂を察したのか、邪鬼は咳払いを一つし娘を見据えた。 「塾長の命でこの娘は三号生が預かることとなった。 四天王を護衛につける。万が一、邪な考えを持つ輩が現れでもすれば この邪鬼自ら制裁を加えてやろう。 最も江田島の親父の血縁と知って尚、不貞を働く輩がいればの話だがな」 その言葉に桃はうっと言葉を詰まらせた。 もし悪さをする輩がいれば、男塾最強の男・邪鬼、そして塾長をも敵に回すことになる。 そうまでして、己の欲望を叶えようとする男がいるだろうか・・・いや、いない。 「あの・・・・・」 話題の中心で在りながら蚊帳の外だった娘が小さな声を発した。 三人は視線を下に促し、少女を見る。 「です。拳法の心得は多少有ります。宜しくお願いします」 遠慮がちな言葉とは裏腹に、筆頭達を前に少しも怯まない眼光に三人は息を呑んだ。 さすが、江田島平八の血縁というところか。 「剣桃太郎、一号生筆頭だ。よろしく」 「赤石剛次。二号生筆頭」 「大豪院邪鬼、三号生筆頭だ。引き受けたからには一命を賭して貴様を護ろう」 三人三様の言葉に、はコクリと頷いた。 こうして、一人の少女が男塾の門を潜ったのであった。 |