出来たらいいなぁ・・・・なんて思う事は。



現実になったら戸惑う事の方が、多分多い・・・・はずなんだけど












もしも私が妊娠したら〜〜榎木津礼二郎の場合〜〜











「子供が欲しいな!」




突然言い出したのは勿論、彼氏である榎さんだった。




「一姫、二太郎、三なすびだ!基本だぞ!!」

「はぁ・・・・・」

「よし!そうと決まれば―――」

「って何するんですか!!」

「子作りに決まってるだろう!!」

「今何時だと思ってるんです!?昼間ですよ!!」

「愛し合うのに時間など関係ない!!」






あっという間に身体を持ち上げられ、お姫様だっこでベットに運ばれる。

どんなにもがいても所詮敵わぬ身で。





「礼二郎さん、怒りますよ!」

「なんで怒るんだ?僕達が愛し合うのになんの問題があるのだ!」

「時と場合と状況と場所を考えて下さい!!」

「昼の一時で二人きりで僕の事務所でベットの上だな?問題ないじゃないか!」

「そうじゃな・・・・ん・・・」



楽しそうに私に口付ける榎さんの顔を見たら、拒む事なんて出来るはずがない。

所詮惚れた身、私は彼の首元のネクタイをするりと緩めた。








後は全てなし崩し。


























それから一ヶ月後。

私は呑気に探偵事務所で雑誌を読んでいた。

探偵助手の益田君は真面目に仕事に出かけていて、当の探偵は私の膝の上で寝そべっている。







さん、お茶飲みますか?」

「うーん、じゃあ貰おうかな?」






和寅君が気を利かせて紅茶を淹れてくれる。

彼の淹れるものは紅茶にしろ珈琲にしろこだわりがあって美味しい。

今日も少しばかり相場より高い紅茶の葉で私専用のカップに紅茶を淹れてくれた。




「どうぞ」

「ありがと!」

「今日はもうお客さんは来ないですかねぇ」

「うーん、そうねぇ・・・・・・・・」

「どうかしましたか?」





気持ち悪い。

いつも通り紅茶を口に運ぼうとして、何故か手が止まった。

和寅君が不思議そうに私を見てる。

何かがお腹の底からせり上がってくるような感覚に私は口元を押さえた。





「なんか、不味かったですか?」

「ううん、違うの。そうじゃなくて・・・なんか吐き気がするっていうか・・・」

「気分が悪いんですか?ええと・・・・」

「大丈夫。今日はちょっと・・・帰るね」






膝の上で寝ている礼二郎さんを起こさないようにゆっくりとソファーに寝かせて立ち上がる。

その瞬間にもくらっと眩暈がして机に手を付いた。





「ほ、本当に大丈夫なんですかい?なんなら奥で休んだ方が!」

「う、ん・・・おかしいな・・・・さっきまで全然・・・・」

「このまま返したら私が先生に怒られちまいますよ!奥で寝て下さい!その方が先生も喜ぶでしょうし」

「うん・・・・じゃあ・・・・」





どうにも立っているのが辛くてまた座り込んでしまった。

和寅君が身体を起こしてくれて、奥の寝室へ向かう。

何度か寝たことのある礼二郎さんのベットにどさりと身を沈めた。





「とりあえずはここで寝てて下さい。なんか食べ易い物買ってきますから。
フルーツがいいですかね?雑炊とか食べれます?」

「雑炊はちょっと無理かも・・・・なんか・・・酸味がある物の方が・・・」

!それはすっぱい物が食べたいという事だな!!」





バン!

突然音がして礼二郎さんがベット前に走り寄ってきた。

一体何時の間に起きたのだろう。

いつも通り意気揚々と何か楽しそうだ。





「う・・・ん・・・まぁ・・・」

「な、なんなんです?」

「馬鹿かお前は!妊娠だ!はきっと妊娠したんだ!」

「え?」

「は、に、妊娠ですかい!?」

「そうだ!吐き気に酸っぱいものとくればこれはもう子供だ!妊娠だ!」





自身満々にそういう礼二郎さんに私も和寅君も目を丸くする他ない。

確かに言われてみるとまだ生理が来ていないような気もするけど。



というかいくらなんでもそれはきっと飛躍しすぎなんじゃないかと思う・・・





「何をくずくずしている和寅!さっさと医者を連れて来い!」

「あ、は、はい!!」

「ちょっと・・・礼二郎さん!それはいくらなんでも―――」




早計過ぎる、と言おうとするがもう和寅君の姿は見えない。

ベットにうつ伏せたままどうしようかと思っていると、目の前が暗くなった。




「嬉しいぞ、!僕達の子供だ!約束通り最初は女の子がいいな!」

「れ、礼二郎さん・・・・」





抱きしめられて、視界が礼二郎さんで埋まる。

大好きな匂いがして、私は気持ち悪さも忘れ目を閉じた。

きつく、けれど少し優しく抱いてくれる腕は温かい。







「なまえを考えなきゃな!何がいいか・・・・うーん、迷うな!」

「うん・・・そうね・・・」






なんだかもうどうでも良くなってしまった。

礼二郎さんがこれだけ喜んでくれるなら妊娠でもなんでも、どんと来いって感じ。

嬉しそうな礼二郎さんを見ていて私もすごく幸せな気分。

女の幸せってこういう事を言うのだろうか。








!式はやはり西洋式がいいか?お腹が大きくなる前にやらなきゃな!」






お医者さんが来るまでのほんの少しの間、礼二郎さんは嬉しそうにほんのちょっと先の未来の事を話してくれた。

私達の家族計画。









後でやっぱり妊娠はしてなかったって分かるんだけど。









今はまだ幸せな新婚気分で。








二人の夢を語りましょう。














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ずーん。やっぱ榎さん苦手だ・・・・ごめ、ごめんなさい・・・・