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両手いっぱいの”おめでとう”を貴方に。 おめでとうを貴方に目を覚ますと妻がいない。 台所から物音が聞こえ、朝餉の用意をしているのだと知る。 ゆっくりと身体を起こす。 獣の目に朝日が眩しい。 「名前」 台所へ入って妻の名を呼ぶ。 が、振り向かない。 聞こえなかったのかともう一度呼ぶと、拗ねたように口を尖らせて振り向いた。 「―――――どうした」 朝の挨拶もせずに、そんな表情を見せる時は怒っている時か拗ねている時。 だが今朝は身に覚えは無い。 昨夜いつも通り片手に妻を抱いて寝たのだし、機嫌を損ねるようなこともなかったはずだ。 「今日は早く帰ってきますよね?」 「む・・・・」 「帰って来てください」 「判った」 訳が判らず、約束させられる。 けれど頷いた途端、妻の機嫌が良くなったのだからヨシとするか。 「お早うございます、左陣さん」 「お早う」 やっといつも通りの笑顔で頬にお早うのキスをしてくる妻に、今日は絶対早く帰らなければいけないと心に決めたのだった。 ++++ ++++ ++++ 「日が暮れてきたな・・・・・」 隊長室の窓から見える陽が傾いてきた事に、左陣は顔を上げた。 仕事は粗方終わらせたから、後は射場に任せれば良いだろう。 「済まぬが射場、後を頼むぞ」 「へい!奥方もさぞ張り切っておられるでしょう」 「・・・・・? どういうことだ」 「今日は狛村隊長のお誕生日でしょう」 「誕生・・・・そうか」 それで今朝の妻の様子に会得がいった。 やはり拗ねていたのだろう、名前に誕生日を教えた覚えは無い。 だがそうすると、一体誰が教えたのかという疑問が残る。 第一候補はやはり悪戯好きの東仙(本人は親切のつもりらしい)なのだが、 今や卯の花・市丸・藍染と名前にちょっかいを出すものは後を絶たない。 「全くどうして余計な真似ばかりする輩が多いのか」 「お言葉ですが隊長、もし誕生日を過ぎてからそれを知ったら、奥方はお怒りになるだけじゃ済まないでしょう」 「それは・・・そうかもしれぬが」 「好きなモンの誕生日なら誰でも祝いたいもんですけん」 「そうか」 射場に背中を押されて、七番隊を後にする。 急ぎ足で家へ向かった為、どうにか日が暮れる前で家の前に着いた。 妙な事といえば、今日に限って野次馬連中に出会わなかった事か。 玄関を開けると、すぐに妻が飛び出した来た。 「お帰りなさい!左陣さん!」 「ああ、ただいま」 「・・・・・・? 名前、誰か来ているのか?」 玄関にはたくさんの草鞋が並んでいた。 少なくとも十足はあるように思える。 「ええ、皆さんお待ちですよ」 「何?」 妻に手を引かれ、居間に入る。 と、中には見慣れた、いや、予想していた顔がずらりと並んでいた。 まずは当然のように狛村家に入り浸っている東仙と、お付の檜佐木。 「お帰り、狛村」 「お邪魔しています」 「おっかえり~~~~狛村く~~ん、まま、座って」 「名前ちゃんって料理上手いねんな。いっそ僕のお嫁に欲しいわ~~」 既に酔っ払っている京楽と、市丸。 「京楽隊長!飲み過ぎです!」 「市丸隊長、つまみ食いしないで下さい!」 その横で互いの隊長を諌めている七緒とイヅル。 「やぁ、お邪魔しているよ狛村君」 「お誕生日おめでとうございます、狛村隊長」 ちゃっかり席に着いてる、藍染と雛森。 そして・・・・ 「射場・・・・・貴公・・・・・」 「いやぁ、奥方に内緒にするよう頼まれまして」 確か隊長室に置いてきたはずの射場が席に座っているのを見た時は、さすがの左陣も脱力した。 「左陣さんも上座にどうぞ」 満面の笑顔の妻にそう言われれば、逆らえるはずもない。 言われたとおり上座(というかお誕生日席)に着くと、東仙が杯を掲げた。 「狛村君の生誕に、乾杯」 「「「「「「「乾杯!」」」」」」 それを合図に皆、料理に箸を付け始めた。 思えばこんな風に皆に誕生日を祝われたことなどなかった気がする。 「左陣さん、一杯どうぞ?」 左陣の杯に日本酒が注がれた。 妻は本当に嬉しそうに左陣に微笑む。 「びっくりしましたか?」 「・・・ぁあ」 「じゃあ、成功ですね」 「だが、来年は二人だけで静かに過ごしたいものだな」 そう言うと、妻は驚いたように顔を赤くし、 「じゃあ来年はそうしましょう。これから何十回と左陣さんの誕生日を祝うんですから」 と微笑んだ。 「ひゅーひゅーー!!御熱いねぇ」 「いやー、こっちが照れてまうわ」 「こらこら、京楽、市丸、からかうものじゃないよ」 「とか言って一番からかってんの、九番隊隊長さんやないの」 「貴公ら・・・・・・・」 そうこうしている内に卯の花が山本総隊長からの差し入れの日本酒を持って現れ、酔った野次馬の冷やかしによって夫VS姑戦争が再び勃発する。 喧騒はまだまだ止まない。 ところで名前に左陣の誕生日を教えたのが誰かと言えば、答えは。 此処にいる隊長格全員・・・・・・・だったりする。 |