ひらりと舞うもみじの葉にあの人の手を思い出す。



大きくてたくましいのに、それを隠そうとする鉄の塊。















鋼鉄の腕













「左陣さん」





たまの休日、いつも腰に下げている斬魂刀の手入れをしている左陣の元にお茶を持っていく。

愛刀は戦いの中では凄まじい力を発揮するものの、その対象がいない時はただ静かにその存在を主張している。






「済まんな」





湯のみを持つ手は鉄で覆われてその全貌は見えない。

まだ身体を重ねた事のない自分は左陣の本当の姿を知らない。






「いえ、」






出来れば鉄に覆われてた手ではなく、

温もりを感じられる、素の手のひらで身体を包んで欲しい。

そう思うことは女として当たり前じゃないだろうか。

直に貴方を感じたい。







「もう秋か」





庭に舞う落ち葉を見つめながら左陣が言う。

それに頷き、縁側に腰掛けている夫の隣りに座る。

少し力を抜いて右側に寄りかかると、服の上から硬くつめたい感触が伝わった。







「左陣さん」

「如何した?」






何も考えずに夫の名を呼ぶ。

それになんの疑問も抱かず優しく応えてくれる左陣。

結婚当初には考えられなかった安らぎ。






「いいえ、なんでも」

「そうか」









いつか、

いつか全てを見せてくれるだろうかと、

いつかその腕で抱いてくれる時がくるだろうかと、







今はまだ聞く勇気がない。

誰よりも優しい貴方を知っているから。









鉄の腕にそっと己の手を添える。

紅葉のような、あまりに大きな手を握り締めると夫が何事かとこちらを見る。






「もう秋ですね」

「そうだな」










はらり、はらりと。

落つ紅葉が無くなるまでには、この大きな手から温もりを感じたいと、








そう願って、そっと、

鉄の腕に口付けた。