「左陣さんのバカーーーー!!!」 尋常ならざぬ声が狛村家に響いた。 僕と君と野次馬と「ななな、何事じゃ!?」 その声を聞いて、射場は慌てて狛村家の玄関を開けた。 比較的家も近い上司の家に迎えに行くのは射場の習慣である。 今日もいつものように狛村家の門の前で待っていると、上司の愛妻の叫び声が聞こえた。 「奥方!?どうなさいました!」 開けた玄関の先で見たものは悲劇のヒロインのように涙を浮かべたの姿。 その横で仁王立ちしている狛村の表情は袈裟で隠れて見えない。 「射場か。大したことではない」 「し、しかし・・・」 「大したことない!?左陣さんにとっては大したことないんですか!」 「落ち着け、」 「左陣さんなんて大嫌いっ!!!」 は手にしていた手拭を左陣に投げつけ、家を飛び出した。 射場は唖然とするが、すぐに我に帰る。 「狛村隊長!追いかけなくていいんで?」 「・・・・・構わぬ。あれの我侭だ」 「し、しかし・・・・」 「行くぞ、射場」 うろたえる射場を余所に狛村は落ち着いた様子で草鞋を履いた。 仲の良いこの夫婦の修羅場に居合わせたのは初めてで、てっきり狛村も慌てているものと想ったが、どうやらそうでもないらしい。 夫婦喧嘩は犬も喰わぬと言うし・・・結局射場はの行方を気にしながらも、狛村の後を追った。 「なぁ、イヅル」 「なんですか、市丸隊長。余所見してないでさっさと筆を動かしてくださいよ」 「つれへん子やねぇ。あれ、七番隊隊長さんとこのやないの?」 「は・・?ああ、確か元四番隊の・・・五席でしたか」 「そうそう、そのちゃん。なんか泣いてへん、あれ?」 そう言って上司が指差した先の女性は確かに泣いているようだった。 木陰に隠れ、膝を抱えている。 しかし死神業を引退した彼女がどうして隊舎近くで涙しているのだろうか。 「心配ですね。何かあったんでしょうか」 「よし!行ってみよ!あんな所で泣いてたらおかしな連中に連れて行かれてしまうわ」 「ちょ、市丸隊長!この書類はどうするんですか!?」 「なんやイヅル、ちゃんより書類の方が大事なんか?冷たい子やなぁ」 「そうじゃないですけど・・・大体、隊長はさんと知り合いなんですか?」 「いや、全然知らんわ」 「はぁ!?って市丸隊長!!」 市丸の姿は一瞬で見えなくなった。瞬歩だ。 どうしてこんな時ばっかり張り切っているのだろうか、あの人は。 仕方なく自分も二人の所へ行く。 階段を使わずに三階から飛び降りると、丁度市丸がに声を掛けている所だった。 「君、七番隊隊長さんとこのちゃんやろ?どないしたん、こんな所で」 「え・・・あ、市丸隊長!?」 「あ、なんや。僕の事知ってるや。嬉しいわ」 「それはもちろん・・・・隊長のお顔を知らないわけありません」 「ま、それはいいわ。こんな所でそんな可愛い泣き顔しとったら、悪い狼に攫われてしまうで?」 にこにこと笑いながら、警戒心を解いていく。 どこでどう学んだものか、この人はこういう所ばかりが長けている。 また面倒な事になりそうだ、とイヅルは溜息を付いた。 「市丸隊長・・・・それくらいにして下さいね」 「なんやイヅルも結局来たんか」 「ええ、悪い狼から狛村隊長の奥方を護らなければなりませんから」 「嫌やなぁ。まるで僕が狼みたいな言い方やないか」 「違うんですか?」 イヅルの言葉にホンマ、嫌な子やなと拗ねた顔して市丸が言った。 と、笑い声が下から聞こえた。どうやらのようだ。 「さん・・・?」 「あ、いえ、すいません。仲が宜しいと思いまして」 「ああ、やっぱりちゃんの笑った顔は可愛いわぁ」 「市丸隊長・・・お願いですから人様の細君を口説く真似は止して下さい」 「そない命知らずなこと。で?ちゃん何してんの」 「あ・・・いえ・・・・今朝ちょっと喧嘩をしてしまって・・・・・」 「喧嘩?七番隊隊長さんと?なんで?」 バツが悪そうに俯くに市丸が喰い付く。 本当に野次馬根性というか、図々しいというか。 「いえ・・・・大したことでは。きっと私が悪いんです」 「そんなの分からへんわ。よし!僕が判断したるわ。」 「何言ってるんですか、市丸隊長!さんに失礼でしょう!!」 「あ・・・・いえ、そんなことは・・・」 「なんや、イヅルは聞きたないん?七番隊隊長とこの夫婦事情」 「うっ!!」 聞きたくない・・・・・はずがない。 狛村夫婦のことは噂でも頻繁に聞いていたし興味はある。 話題の美女と野獣カップルは一部のごつい連中(主に十一番隊)に夢と希望と勇気を与えたのである。 聞いた話では十三番隊同士のお見合いが流行っているらしい。 「ほら、な?聞きたいんやろ?ちゃん話してみ?」 「あ、はい。実は今朝―――・・・・」 こうして朝っぱらから三番隊恋愛相談室が始まった。 四番隊の放った地獄蝶が辺りを徘徊していることなど知る由もなく。 |