「うわーーそらひっどいわぁ」

「まだ何も言ってませんよ、市丸隊長・・・・・」

「・・・・(この人達漫才みたい)・・・・」






(ブーン・・・・・)




僕と君と野次馬と













檜佐木修兵はその日、書類を届けに七番隊を訪れた。

普段行き慣れている為なんの迷いもなく七番隊の扉を開く。

と、そこはなぜか気まずい雰囲気に包まれていた。







「? どうしたんだ?」



何番隊隊員は皆、机に座って俯いている。

射場に至っては腕組みまでして唸っている。





「射場さん・・・・書類を持ってきたんですが、狛村隊長は?」

「む!い、いかんぞ!今はいかん!!」

「は?」




ぶるぶると顔を横に振る射場・・・と、七番隊隊員。

訳が分からず、隊長室の方を見る。

扉は閉まっているが、霊圧は感じるから中にいるのだろう。





「いらっしゃるんでしょう?この書類に判子が欲しいんですが」

「いやいやいや、今は止した方がええぞ」

「はぁ?だからなんなんです?」

「機嫌が悪いんじゃ。とてつもなく」

「機嫌が悪い?狛村隊長が?」




在りえない・・あと思ってしまったのは。

狛村隊長の人柄を知っているからで。

生きている以上どんな人間でも機嫌が悪い時ぐらいはあるだろうが、

だからといって狛村隊長は周りに当たり散らすような性格ではない。
(これが十一番隊とか六番隊なら話は別だろうが)

従って誰よりもそれを知っているはずの七番隊隊員のこの反応は腑に落ちないもので。






「何かあったんですか?」

と、聞くと

「わからん・・・が奥方と・・・・市丸隊長が関わっている事は確かじゃな」

「奥方と・・・・市丸隊長?あの二人って知り合いだったんですか?」

「いや、わからんが・・・・さっきイヅルが手紙を持ってきてのぅ。
それが狛村隊長宛てだったんじゃが・・・・その手紙読んだ途端、
霊圧が跳ね上がって・・・・平隊員がビビっちまって使いものになならん」

「はぁ・・・・それで」



皆あんなに萎縮していたのか、と納得がいく。

しかしそうなると気になるのは手紙の内容で。

市丸隊長からだということは、きっと何か嫌がらせか悪巧みの類に違いない。

それに奥方が絡んでくるということは・・・・






「まさか奥方、市丸隊長に誘拐なんてされてませんよね?」

「おんしもそう思うか?儂も気になるんじゃが・・・当の隊長が動かんからなぁ」

「イヅルに聞いてみたらどうでしょう?あいつが手紙持ってきたんでしょ」

「そうじゃな!よし、それじゃイヅルを捕まえにいくかのぅ」




イヅルのことだ。今回も無理矢理市丸隊長に付き合わされているに違いない。

射場と二人、七番隊を出て三番隊隊舎に向かう。

書類のことは既に頭にはなかった。
















「ほら、これ美味しいやろ?僕大好物やねん」

「本当、美味しい」

「そんな和んでる場合ですか・・・・あんな手紙出して・・・・知りませんよ、僕は」



イヅルはヅキヅキと痛む胃を押さえ、呑気な二人を見た。

憎ったらしい笑顔で団子を頬張る上官とさっきまでの泣き顔は何処吹く風の狛村夫人。

夫人は市丸の出した手紙の内容を見ていないから、呑気でいられるのだろうが、

こちらはもう胃に穴が開く思いだ。

三番隊に配属されてから常備している胃薬ではとても事足りそうにない。




「四番隊で薬を調合してもらおうかな・・・・」

「あん?なんやイヅル、四番隊に行くんか?ならお土産に羊羹買ってきてやー」

「なんでそんなに呑気でいられるんですか・・・・・」

「ん?なんか言うたか」

「いえ・・・・・・じゃあ行って来ます・・・・・」





これから惨劇になるだろう場にこれ以上此処に居たくない。

イヅのルはさっさと腰を上げると、隊舎から逃げ出すようにその場を後にした。






「イヅルさん・・・・・どうしたんですか?」

「んー?なんや腹が痛いみたいやで。そんなこと気にせんでええから」

「はぁ・・・・あ、お団子もう一つ貰ってもいいですか?」

「ええで、食べや〜〜〜」

「ありがとうございますv」










三番隊から四番隊隊舎に行くには九番隊前を通らねばならない。

比較的静かな九番隊を時折羨ましく思う。

胃を押さえながら、廊下を歩いていると九番隊隊舎の扉が開いた。




「おや、この気配は吉良君かな?」

「東仙隊長!」

「どうしたんだい?こんな処で」

「いえ、四番隊に胃薬を貰いに・・・・」

「ああ、そうか。君も苦労してるんだね」



そう言いながら笑う。この和やかな空気が身に染みた。



「東仙隊長・・・・」

「うん?どうしたのかな?悩み事かい?」

「はい・・・・実は――――」



話してすっきりしよう、そう思った時。



「「イヅルゥ!!!」」
「え?が、ぐふぅ!!!」


突然の声に振り向くと、腰にダブルキックを喰らった。

ばこん、と顔を柱に打ち付けられる。




「ななな!!なんだ!?敵襲か!?」

「見つけたぜ〜〜〜!!!」

「イヅル〜〜〜洗いざらい話してもらうけんのぅ!!」

「な、なんですか!?なんだよ、コン畜生!!」


射場に胸倉掴まれ、揺さぶられる。





「なんだじゃねぇだろ、コラ。手前ェ狛村隊長に何したんだ?」

「うちの隊長に手ェ出すとはいい度胸じゃけん」

「はっ!!あの手紙のことですか!あれは市丸隊長が!!」

「・・・・・・・どうしたのかな?三人とも」




東仙は突然の騒動に首を傾げていた。

自分の部下と友人の部下が揃ってイヅルを締め上げているのだ。

それも当然だろう。



「た、助けて下さい!東仙隊長!!」

「騙されないで下さい、東仙隊長!」

「イヅル、奥方はどこじゃ!!吐かんとどうなるかわかっとるじゃろうな!!」

「・・・・奥方って狛村の奥方のことかな?」

「そうなんですよ!市丸隊長が狛村隊長の奥方を何処かへ連れ去ったんです!」

「連れ去ったなんてそんな!!!誤解ですよ!!」






「どういうことか説明してもらえるかな、吉良君?」








その時の東仙隊長の笑顔は、まるで般若が笑ったようであったと、

吉良は後に語る。










(ブーン・・・・・・・)