妻が己の部屋に出入りするのは当たり前ことである。 だが夫が妻の留守中に妻の部屋に立ち入ることなど早々無い。 狛村左陣も例外ではなかった。 それは妻の留守中だった。 元四番隊から連絡があり、妻が結婚前に扱っていた患者の書類まだ持っているはずだから探して欲しいとのことだった。 火急の事らしく、法事で実家に帰っているは連絡が取れない。 対応した相手が七番隊隊長だったことに相手は萎縮していたが、狛村は快く引き受けた。 なんといっても妻の元同僚だ。無下には出来まい。 そんなわけで主の不在中に妻の部屋に入ることとなったわけだが―――― なんせ妻の部屋に入ったのは始めてである。 しかも最近はが左陣の部屋に入り浸っているからあまり使用されていない。 どこをどう探していいか分からず、しばらく部屋を眺めていた。 そういえば。 あのアルバムは何処へやっただろうかと思う。 東仙が持ってきた霊央院時代のアルバム。 子供のような応酬の上、結局が持ち去ったままなのである。 ただ立っていても仕方ないと、押入れを開ける。 書類の類(アルバム)があるとしたらここしかない。 思った通り、書類の箱が二つ程見つかった。 どれが必要なものか左陣には区別付かぬから、後は四番隊に連絡して取りに来てもらえばいい。 さっそく地獄蝶を飛ばすと、左陣はもう一度部屋の中を見回した。 ――――まだ肝心なものが見つかっていない。 あのアルバムを一体何処に隠しているというのか。 さすがに衣服の入っている箪笥を探す気にはならない。 簡単に化粧鏡の裏や箪笥の隙間などを探してみたが見つからない。 「―――――これは」 ふと机の下に隠すように紙袋が押し込まれているのに気付いた。 引っ張り出してみると、柔らかい感触。 アルバムではないようだが、何故か気になり開けてみるとその中には、白い毛糸のようなものが詰まっていた。 マフラーの編みかけだろうか。 蛇のように長い毛糸の束が出てくる。どう見てものサイズではない。 では――――自分にだろうか。 顔が赤くなった気がした。 慣れていない。徹底的に。 誰かに愛される事に。 明日は妻が帰って来る。 一体どんな顔をして会えばいいのか。 左陣は初めて袈裟を被らなくなったことを後悔し、 そして妻に指輪でも贈ろうかと思った。 ――――初めての贈り物を 妻はどんな顔をするだろう |