夫婦という言葉の意味を



知らなかった男が今、



初めて









夫婦:夫婦の意味




















呼ぶようではなく、それは呟きだった。

己の胸に顔を埋めた女をどうしたらいいのか分からず、

ただ、

呟く。






大きなその腕は胸の中の小さな存在を抱きしめることも触れることもせず。






「左陣さん」





哀しげに己の名を呼ぶ妻に応えることが出来なかった。

風のざわめきが耳鳴りのように響く。

視線を下ろして妻の顔を見ることが出来ない。










「抱いてくれないんですか?」

「それは」







愛し合っている者同士がする行為だー―――






左陣はその言葉を言う事は出来なかった。

それはあまりに残酷な。









「はい」

「儂は獣だ」

「・・・・・はい」

「儂は―――」

「私は」







手のひらを左陣の口先に当てて、左陣の言葉をが遮った。

細い腕だ、と改めて思う。







「左陣さんが好きです」



「左陣さんは私のこと嫌いですか?」





左陣は目を伏せた。

嫌いである、はずがない。









「儂も・・・・貴公を好いておる」

「それは」



「愛しているということですか?」







妻の瞳が初めて不安に揺れたのを左陣は見た。

細く小さな身体を両腕で抱え上げる。

ひゃっと小さな叫び声が上がり、左陣の右膝にの身体が乗った。







、儂と夫婦めおとになってはくれぬか」

「―――え?」

「本当の、夫婦に」








左陣の手がの頬を撫でる。

まるで壊れ物を扱うかのような仕草には苦笑する。

そして嬉しく思う。

愛されていると、実感したから。








「はい。私は貴方の妻となります」






そう言って微笑んだのその美しさに

左陣は目を細め

そして

左陣からの初めての口付けを妻に











それは二人だけの結婚の儀













夫婦の意味を知らなかった男は

愛しい女をその腕に抱いて









愛という名の幸福を知る。