忍は毒見をすると聞いたことがある。 確か忍者ハッ●リくんだってそんなことを言っていたような気がする。 けどこれは、あんまりじゃなかろうか。 毒を食らわば皿まで?目の前にはお箸の先に刺さった里芋。 そして腕を組みまるで食べる様子を見せない忍が一人。 最近任務ばかりでちっとも帰って来ない家主の代わりに、小屋の家事を請け負うようになって少し経つ。 だからと思って頑張って作ったのはあまり上手でない料理。 今までコンビニに頼って料理なんてほとんどしたことのなかった私の料理は、材料をただ煮ただけのもの。 けれど頑張って作ったんだから、と口にすれば、まぁ自分で作ったものだし食べられないことはない。 けど、自分で作ったものだから、と理由だということは、 ”赤の他人”が作ったものだったら食べられないということで、 目の前の男は、畑で取れた里芋を両手箸で獲物のようにぶっ刺したまま食べようとしない。 「別に無理して食べなくてもいいですけど」 イライラしながら声を荒げれば、 「・・・・・・」 その言葉に素直に里芋を皿に戻し、懐から出したお握りに齧りつく。 なんでこんな時に限って素直なんだ!とか 目の前にご飯が盛られるのに、なんで懐のお握り食べるんだよ!とか 自分の箸で穴を空けた里芋をそのまま皿に戻すな!とか 言いたいことがいっぱいあるのをぐっと抑え込んで、穴の空いた里芋を箸で掴んで口に放り込む。 冷徹忍者に食べて貰えなかった里芋が私の口の中で柔らかに溶けていく。 里芋自身は結構美味しい。これで味付けが、まともなら。 自分でさえそう思っているのだから、他人に食べろ、とは言い難い。 今日言い損ねたことは全部、もうちょっとまともな料理を出してから言おう、そう心に決めて無言で煮物を片づけていく。 「・・・・・・・・・・・・」 ふと風魔の視線に気づいた。 何も言わない風魔の表情は素人の私なんかに分かるわけがない。 自分の機嫌が悪い時は、なんでも悪い方に解釈してしまうのは人間誰しもあること。 お前、よくそんなもの食えるな、 そう言われている気がしてますますイライラして、風魔がしたように人参をお箸でぶっ刺した。 「ちょっと、こっち見ないでもらえますか」 「・・・・・・・」 不機嫌が伝わったのか、元々風魔自身も不機嫌だったのか、 険悪な空気が周囲一体をドロドロと包み込む。 悲しいことにこの男の殺気とやらにも少々慣れてしまった私はこの程度ではへこたれない。 これくらいならまだ、大丈夫、そう自分に言い聞かせてご飯を口にかきこんだ。 「なんれふか」 もごもごとご飯を口に含みながら風魔を睨む。 あいにくここには行儀が悪いと叱る人間はいない。 残り少ない煮物の中の少々大きく切りすぎてしまった最後の大根の輪切りに齧りつく。 円形の大根には思い切り齧ったあとがくっきりとついていた。 「そんなに睨んでもあげませんから!」 別に欲しがっているわけじゃないのはわかってるけど、なんとなくそう言ってそっぽを向く。 と、次の瞬間顔先を風がシュッと掠め、お箸の中の大根が消えていた。 「あーーーー!!!」 大根の行方は言わずもがな、あの忍で。 むしゃむしゃと口を動かして、顔の前で手のひらを顔に向かって縦にして二回振った。 (ない、ない) 「まずいってことか!!!」 そう叫んだ瞬間、忍はもうどこにも居ず、残されたのは煮物と私。 風魔の分としてよそられたご飯も全く手を付けられぬままほかほかと湯気を立てている。 忍は毒見をするって言うけれど、 用意したものに全く手をつけないで、目の前で自分の用意したお握りを食べた挙句、 齧りかけで毒が入っていないことを確認して勝手に食べて、その上不味いなんて、 あんまりなんじゃないでしょうか。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後書き 会社で料理する?と聞かれ、「御飯だけ炊いておかずは買います」と答えたら 「へーご飯炊くんだ、えらいねぇ」と言われ、自分どんだけ料理出来ないと思われてたんだ と思った複雑な乙女心をそのままネタにしてみました。 現代の女の子なんてそんなもんですよねぇ(と同意を求めてみる) 上の料理はそのまま私の失敗談です。 |