思えばそれはあるはずのない出会い。
突然現れた貴方の姿に、私は一目惚れをした。
いつか必ず訪れる別れの予感に気付かぬふりをして―――――
「なぁに、たそがれてるんでィ」
「だってだって、山崎さん達今日帰っちゃうんだもん!ぁああタイムマシンなんて直らなければいいのに!そうだ、壊しちゃおう!総悟だって総司君と離れたくないでしょー!」
「なに馬鹿なこと言ってるんでィ。総司君達には総司君達のやるべきことがあらァ」
「だ、だけど!だけど!!」
「いい加減、泣きやみやがれ。辛気臭せぇのはジミーの面だけで十分でィ」
「ううっどうせ私ら姉弟は往生際が悪いわよ」
「笑って見送ってやるのが男ってもんだ。それに今生の別れだなんて一体誰が決めたんでィ」
「男じゃねーし!!」
その日は快晴で、雲の代わりに宇宙船が空を飛び回っている気持ちのいい朝だった。
けれど私の心は晴れない。原因言わずとも決まっている。
今日総悟が壊したタイムマシンが直り、新選組が、山崎さんが帰ってしまうのだ。
それはとても喜ばしいことで。突然意味の分からない世界に来てしまった彼らはきっと帰りたくて仕方なかったに違いない。
頭では分かっている。私は笑顔で彼らを送り出さなくてはならない。分かってはいるんだ。
たった一週間。
されど一週間。
彼らは、山崎さんはこんなにも私の中で大切な存在になってしまった。
私だけじゃない。副長にとっても総悟にとっても、終さんにとっても局長にとっても。
真選組にとって、新選組はとても大切な仲間になった。
私達の目の前には、タイムマシンがある。
筒型のガラスの容器のような入れ物にたくさんの装置がついているそれは、正確には時空転送装置と言うそうだ。
様々な星から星へその装置を使って瞬間的に物や人を移動させる事ができる装置で天人の叡智の結集であるそれは、今幕府の研究者の手によって機械音を発している。
もうしばらくで全ての準備が整うだろう。
笑って見送れと言った総悟は、その言葉を実践してみせるかのように総司君の元へいた。
「総司君、餞別でィ」
「これって、総悟君がいつもしているやつ?」
「アイマスクでぃ。昼寝と説教の時にぴったりですぜィ」
「ありがとう。ちょっと欲しいなって思ってたんだ」
「なんならバズーカも持っていきやすかい?」
「ほんと!?それもすごく欲しいと思って」
「ハイ、そこ!!危険物持ち込み禁止ィイイイ!」
「「ちっっ!!」」
二人の不穏なやりとりに大声を上げたのは、副長だった。
それをため息を吐きながら見つめているのは歳三さんだ。
「最後の最後まで面倒かけちまって悪かったな」
「構わねぇよ。どうせ原因は総悟だ。それより・・・」
「なんだ?」
「・・・・・・いや」
「やっぱ寂しいのか?」
「寂しくねぇよ!!餞別にマヨやろうと思ったけど、やっぱ止めんぞ!!」
「くくくっ、あんたの好物か。ありがたくもらっとくぜ」
「おうっ」
副長が歳三さんにマヨを贈呈しているのにはちょっと驚いた。
自分専用のマヨネーズを誰かにあげるなんて、それこそ天地がひっくり返るような出来事だ。
二人は夜毎、政治や兵法談義を繰り広げていたようで、互いを認め合っているのだろう。
「餞別だ。持っていけ」
「! ・・・ありがたく頂戴する」
静かに最後の挨拶をしていたのは終さんと一さんだった。
一さんの手には何本かの真新しい刀。きっと終さんがあげたのだろう。
それぞれがそれぞれの形で別れを惜しんでいる中で、ぐすぐすと泣き声が聞こえた。
誰の声かなんて、振り返らなくてもわかる。昔よく聞いた退の泣き声。
その傍には山崎さんがいて、退を慰めるように頭を撫でていた。
「うっうぅう、兄さんどうかお元気で」
「ああ、退君も元気でな。ほら、いつまでも男が泣いていてはいけないぞ」
「はいっ・・・兄さん」
「俺のような男が誰かに慕ってもらえるなんて思いもしなかった。俺は幸せ者だな」
「そ、そんな!兄さんは立派な武士です!俺、絶対兄さんのこと忘れません!!」
「ありがとう。俺も君に、君達に会えてよかった」
「はい・・・・・あ、姉さん!?ねえさーん!」
退が私を呼ぶ声が聞こえる。けれど私の足は動かなかった。
山崎さんがこちらを振り返り、目が合う。
「さん」
「――――――っ!」
山崎さんに名前を呼ばれて、返事をしたかったけれど声が出なかった。
声を出したら、きっとそのまま泣いてしまうから。
笑って見送ると決めたのだから、泣いてはいけない。
「さん、お世話になりました」
黙っている私の元へ山崎さんが歩み寄って、一礼する。
喉の奥から込み上げてくる感情をどう抑えていいかわからなくて、私はただ俯いた。
「短い間でしたが、とても楽しかったです。・・・・ありがとう」
「・・・・山崎さ、」
「皆さん、そろそろ時間です」
何か言わなきゃと口を開きかけた時、無情にも研究員の声が私の言葉を遮る。
機械の中央の筒の中に新選組が集められ、機械音が大きく響いた。
歳三「本当に世話になったな」
十四郎「おう、もう二度と来るんじゃねぇぞ」
総悟「次に会う時はお互いに副長でさァ!!」
総司「もちろん!その時は祝杯あげようね!」
終「達者でな」
一「ああ、あんたも」
退「兄さん、俺絶対兄さんのような立派な男になりますから!」
烝「ああ、俺も君の期待を裏切らないよう精進する」
「山崎さん、大好きです!!」
烝「さん、――・・―・――!!」
別れの声が飛び交う。やがて轟音で互いの言葉さえ聞こえなくなり、瞬きをした刹那、彼らの姿が消えた。
山崎さんが最後、なんて言ったのか、私には聞こえなかった。
けれど、笑っていたから。最後の最後まで私の大好きな笑顔を見せてくれたから。
私も泣きながら無理矢理笑って見送ったのだった。
拾ったものは最後まできちんと面倒みましょう。 今はリサイクルの時代だもの。
彼らと別れて一週間、屯所はいつも通り騒がしいようでどこか虚しさが漂っていた。
私の口からはため息しか出ない。空はこんなに青いのに。
「なぁに、辛気臭ぇ顔してんでィ、」
「総悟・・・・あんたは元気ね」
「暇ならちょっくら付き合いなせェ。ジミーも連れていきやすぜ」
「退も?総悟これから巡察じゃないの?」
「あんなかったりぃことより面白ェことがあるって言ってんだ。つべこべ言ってねぇで、ほら」
総悟が空いている右手を差し出す(ちなみに左肩には体と口をガムテープで巻かれた退が担がれている)
またロクでもないことを考えているんだろうけど、それでも確かに辛気臭いよりはマシだ。
私は迷わずその手を取った。
「で、何処行く気?」
「そのまましっかり俺につかまってろィ」
「――――?、総悟、それ?」
グッと強く手を握られて、私は初めて総悟の右腕に妙な腕輪が付いていることに気付く。
それは退を担いでいる左腕にも付けられていて、顔を上げると総悟がいつもの悪戯小僧でニヤリと笑った。
「行きやすぜ!!!」
「え、ちょ、ぎゃーーーー!!!!」
「んん”−−−!ん”ん”!!」
総悟の両腕が光る。眩しくて目を閉じた瞬間、グンと身体が引っ張られた。
「で、ここどこ?」
「俺に聞いても知るわけねぇだろ。それより早く探しなせェ」
「は!?なに!?何を探すの、この状況で!!!」
目の前には広大な大地。というか、山、山、山。
屯所にいたはずが突然、見知らぬ自然に囲まれている状況なのに、総悟は鼻歌を歌いながら辺りをキョロキョロ見渡している。
とりあえず私は退のガムテープを取ってやると、退もまた首を振ってあたりを見渡した。
「ねねね、姉さん、ヤバいって!ヤバいって!!」
「そんなの分かってるって。総悟は一体どんな手品使ったわけ?」
「違う!違うってそうじゃなくて―――!!」
「お、いたいた。おーい、総司君!」
まるでその先に誰かがいるように大きく手を振る総悟。
つーか、総司君って?総司君って―――――
「そ、総司君!?」
「あ、総悟君、さん、退君、久しぶりーーー」
「一週間ぶりでさァ。約束通りだぜィ」
「や、約束って!?というか総司君、それまさか――――!」
思わぬ再会をした総司君。その肩にはさっき退がされていたように、縄でぐるぐる巻きにされた人間が担がれていた。
縄の隙間からチラホラ見える、その緑は。
「いやぁあああ!山崎さん!?総司君、あんたなんてことしてんのーー!!!」
「だって山崎君素直について来てくれないんだもん」
「だもん、じゃねーよ!!山崎さん、すぐ助けますから!」
慌てて山崎さんを地面に下ろし、縄を解く。猿轡までされていた山崎さんは、拘束が解けた途端総司君に掴みかかった。
「沖田さん、どういうことですか!?説明して下さい!!」
「やだなぁ。そんなに怒らないでよ。嬉しくないの?さん達と再会出来て。あんなに寂しがってたじゃない」
「そ、そういう問題ではありません!今のこの状況は一体なんなんです!?」
「そりゃ俺から説明しやすぜ。実はあのタイムマシン旧型でしてねィ。新型はもっと小型になってるんでィ」
ほら、と見せた総悟と総司君の両腕には奇妙な金の腕輪。悪魔が二匹、全く同じポーズで腕を見せ合い、女子高生のように顔を見合せて「ねー」と声を揃える。
「そ、総悟、まさかそれ・・・・」
「二度と同じようなことがないように、江戸にあるタイムマシンを新型も旧型も処分するってんで総司君と二人でこっそり研究者からちょろまかしたんでィ」
「こういうの、『りさいくる』って言うんでしょ?」
「そうでぃ。リサイクルは良いことなんですぜ」
「で、待ち合わせして、ここへ来たってわけ」
「「ねーー!!」」
「「なにやってんですか、あんたら!!」」
悪魔二人に続き、退と山崎さんの声もハモる。
「どおりであっさり別れたと思った・・・・・」
そう。今考えると不自然なほどに、あの二人はあっさり別れていた。しかしまさかこんなことを企んでいようとは。
「で、結局ここはどこなの?」
総悟「だから知らねぇって言ってんだろィ」
総司「見たところかなり田舎みたいだけどね」
退「帰れるんだろーな!ちゃんと帰れるんだろうなぁあああ!!」
「おおおおお、お久しぶりです、山崎さん」
烝「はい、まさかこうしてまた会うことになるとは思いませんでした・・・・」
イマイチ感動の再会をしにくい状況に、山崎さんがため息を吐く。
その心境に大いに同意しながら、それでも私はどこか浮かれながら、山崎さんの手を取った。
「あの、あの、一週間前、山崎さんが最後になんて言ったか、聞いてもいいですか?」
烝「え!?あ、そ、それは―――」
総司「聞きたい?さん」
烝「お、沖田さんは黙ってて下さい!」
「え?嘘!?これフラグ立ってる!?恋愛フラグ立ってるーーー!?」
総悟「調子乗ってんじゃねぇ!ちっ、やっぱ進君は連れてくるんじゃなかったぜィ」
「総悟君、おれは進ではありません」
そんな私達5人の背後に、二つの影が迫る。
「Hey、お前ら。この奥州に殴り込みとは随分Crazyじゃねぇか」
「命を捨てる覚悟が出来た奴から前へ出ろ、前だ!!」
「・・・・・・・・・今、なんかマヨラーの声しなかった?」
総悟「おう。とてつもなく不愉快な幻聴が聞こえらァ」
退「ちょちょちょ!めちゃめちゃ怖そうなヤクザがこっち睨んでますよ!あれどう考えたって素人じゃねっつーの!!」
烝「皆、下がって!!」
総司「とりあえず人間だね。良かった、僕、天人嫌いなんだよね。見て目からしてもう嫌い。豚が喋るってどういうこと?」
「誰が豚だぁあ!?どうやらテメェら余程死にてぇらしいなぁ!!」
「Coolになれよ、小十郎。挑発に乗ってるんじゃねェ。Hey、girl、ここで何してる?」
「ぎゃー!!!ものすっごいイケメンなのに、声がマヨラーでしかもルー語喋ってる!!キモい!キモイィイイイ!」
総悟「ありゃきっとトッシーの呪いよってル―語を喋らされている憐れな青年だぜィ。よし、俺がお祓いしてやらァ」
烝「そ、総悟君もさんも落ち着いて下さい!あれは十四郎さんではありませんから!」
退「あんたら喧嘩売る相手考えろ!!どー考えってモノホンのヤクザだから!頬に傷とか普通有り得ないからぁあああああ」
総司「でも声そっくりだね。気持ち悪(プッ)」
「俺が気持ち悪いだと・・・!?上等だ!テメェら全員Hevenに送ってやるぜ!!」
「もう容赦はしねぇ!政宗様を侮辱した罪、死んで償え!」
退「ぎゃーーーー!誤解です!誤解ですからーーーー!!!」
そしてまた新たな喜劇が幕を開ける。
左之さんの行方が気になる方は番外編で(笑)
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