「山崎さん、あの、よ、良かったらどうぞ」 「ええ、ありがとうございます」 にこりと笑う山崎さんに、すすすっと寄り添ってお酌をする。 そう、今日は斉藤さんの稼いだお金で宴会をすることになったのだ。 ギャーギャーと動物園のような騒ぎ声が聞こえる。 元々男所帯の真選組、運ばれる料理よりも酒の消費量の方が遥かに多い男達は、思い思いに酒を口に運びながらそれぞれの時を過ごしていた。 開始10分で酔っ払って全裸を披露するゴリラ、その横でマヨネーズをすするニコ中、酒瓶を抱えて踊る隊士達。 この騒ぎように新選組の面々が若干引いてしまうのではと思いきや、意外にそうでもなくあるがままに受け止めている。 「やっぱいるよね、宴会になると脱ぐ人って」 「おや、総司君のとこにもいやしたかい?近藤さんはあれしかできねぇんでぃ」 「いたよ。お腹に顔書いて踊るのが十八番の人が」 「そりゃ是非見てみてぇもんだ。俺が油性ペンで顔書いて二度と消えねぇようにしてやりますぜぃ」 「それ、いいね!でもどうせやるなら土方さん達じゃない?」 一見楽しそうな風景の中に不穏な空気を漂わせているのは、やっぱりドS二人組。 お互いに酌をし合いながら飲んでいる姿だけ見ると微笑ましいだけに、交わされている会話が嘆かわしい。 「なぁ、十四郎。その、”まよねーず”とやらを焼魚にもかけるのか?」 「マヨネーズはなぁ!太陽系最高の調味料なんだぞ!よし、歳三、お前も食え!!」 「・・・・・・・・いや、いくらなんでもそれはねぇだろ」 「ああん?俺のマヨネーズが食えねってのか!おら、食え!!」 「ちょ、ちょっとまて、十四郎!お前もう酔ってんのか!?」 「副長!歳三さんはコレステロール取り過ぎたら病気になっちゃいますから!あんたと違うんですから止めて下さい!」 「んだと、山崎コラァアアア!!!」 無謀にも歳三さんは副長にマヨネーズについて意見していた。 意外にも酒に弱い副長は既にほろ酔い気味。マヨネーズの海に飛び込んだ鮭をおいしそうに食べている。 退が止めに入ってなんとか歳三さんは事なきを得たが、代わりに退が絡まれて・・・あ、チューブ口に突っ込まれてる。 「一のおかげで久しぶりに旨い酒が呑めた」 「何を言う。あんたが助けてくれたおかげだ」 斉藤ズは喧騒から離れた部屋の隅で二人で静かに酒を口に運んでいた。 終さんが宴会に顔を出すこと自体珍しいことを考えたら、二人も気が合っているのかもしれない。 皆がそれぞれ同じ名字同士仲良くやっているのなら、と私は一升瓶を持って、山崎さんに近づいた。 「山崎さん、あの、よ、良かったらどうぞ」 「ええ、ありがとうございます」 すっとコップを差し出すその姿さえ様になっている。 せめて私が隊服ではなく着物の一つでも着ていれば、少しは絵になったかもしれないけれど。 女物の着物など持ちあわせているはずもなく、悲しいかな、はたから見れば男同士で酌をしているようにしか見えない。 「や、山崎さんは、お酒お強いんですか?」 「ええ。監察方が酒が弱くては任務になりませんから」 その言葉は、普段から情報収集で酒場や遊廓などに出入りしていることを表す。 同じ監察方として仕方ないとは思いつつ、普段から着飾った女性達を見慣れているんだろうな、と思うと少し自分が情けない。 「さんはどうなんですか?」 「あー、私はあまり。実は退も強くないんです。姉弟揃って監察方としては失格ですよね」 えへへっと自重気味に笑えば、山崎さんは真顔で首を横に振った。 「それは十四郎さんが、さん達に酒を飲ませるような危険な任務はさせないということでしょう」 「そ、そうでしょうか」 「俺も貴方をそのような任務に携わらせたくはありません」 だから弱いままでもいいんですよ、と微笑む山崎さんに、カッと身体の熱が上がるのが分かる。 女扱いしてくれて、こんなにも優しい言葉をかけられることなど、今まであっただろうか。 「さん、どうかしましたか?」 「い、いええええええ、な、なにもぉおおおお」 恥ずかしくて思わずどもると、山崎さんがくすりと笑う。 元々あまり表情を崩す人じゃないと思っていたけれど、こんな風に笑ってくれるのだと知ることが出来たのが嬉しい。 「少しでしたら、飲めますか?」 「はははは、はい!!喜んで!!」 山崎さんが私のコップにお酒を注いでくれる。 私も空になった山崎さんのコップにお酒を注いで、二人でチリンとコップを合わせた。 「「乾杯」」 山崎さんと乾杯できるんなんて、幸せすぎて死にそうだ。 私はコップを口に付けて―――――一気に煽った。 「さん!?一度に呑んでは―――」 「いいえ!山崎さんがお酌してくれたお酒を一滴たりとも残すわけには!!」 「だ、大丈夫ですか?」 「ひゃい!山崎しゃん、大好きです!」 ふにゃり、と景色が歪む。目の前にいる山崎さんがまるで蜃気楼みたいに見えて、思わず両手を伸ばす。 「駄目れふ、山崎しゃん、どこへ行くつもりなんれふか」 「お、俺はどこにも、」 「逃がしゃないです、マヨラーなんかに山崎しゃんは渡しゃない!!」 ぽふ、と身体を倒せば温かい感触。目の前には緑色の景色が広がっている。 顔を少しだけ上げるとすぐ傍に山崎さんの顔があった。 「山崎しゃん・・・・」 「・・・・さん」 見つめ合う二人の頬はほんのりと赤い。周りの音がまるで消えたように―――――――― ガシャーーーン!!! 「「「「「「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」 その場にいた全員が固まる。 突如上から何かが落ちてきた。それは、一つは私を突き飛ばして、もう一つは局長の上に落ちてきた。 「ふぇ!?いたい〜〜〜〜〜〜」 「だ、大丈夫か!?」 何かに突き飛ばされて頭を打った私はその場をのたうち回る。 すぐに助けに来てくれたのは歳三さんだった。私の身体を起こして頭を撫でてくれる。 「歳三しゃん・・・」 「大丈夫そうだな。おい、山崎、大丈夫か!?」 歳三さんの言葉に私は酔った頭で考える。私を突き飛ばした何か。それは私の横にいた山崎さんに直撃しているのではないだろうか!? 「や、山崎し・・・・・山崎しゃん!?」 我に返った私が見たもの。それは。 なんだか小さくて。ふわふわしてて。マシュマロみたいな。 とっっっっっってもかわいい女の子を腕に抱いている、山崎さんでした。 (以下人数が多いので、名前羅列) 歳三「平助!千鶴!?お前らどうしてここに!?」 平助「いってぇええええ!・・・・つか、おっさん、大丈夫?」 一「平助、それはここの局長だ。はやくどけ」 勲「ふむ。そうしてくれると助かるぞぉおお」 総司「まさか千鶴ちゃん達まで来ちゃうとはねぇ」 「ふぇ・・・・あんな・・・うぅ・・」 千鶴「皆さん!ずっと探してたんですよ!?あの・・・・ここは・・?」 十四郎「また増えやがったのか・・・・もうこれで終わりだろうな!」 総悟「わからねぇですぜ。その内隊士全員来たりして」 終「シャレにならんな」 退「いくらなんでも多すぎだろ!!」 「・・・・・ぐぇ・・かわいい子・・・ふぇええ・・・」 烝「二人とも怪我はないか?」 千鶴「はい、私は大丈夫です」 平助「俺も平気だけど・・・・」 「やだぁあああ!!!ふぇえええええええ」 千&平「「あの人の方が大丈夫じゃないんじゃ」」 二人が指さした先には、膝を抱えて泣きじゃくる。 誰もが突っ込まずにいたものを新参者が指さすのを見て、ある者はため息を吐き、ある者は舌打ちをする。 すると動いたのはS星のW王子。二人で顔を見合わせてニヤリと笑う姿にイヤな予感に身を震わせたのは一人や二人じゃない。 「ごめんね、ちゃん、今まで隠してて」 「総司君を責めるのはお門違いですぜィ、。言わねぇのが優しさってこともあらァ」 「まぁ気を落とさないでね。いくら山崎君に想い人がいたとしても」 「そうでさァ。ゴリラを見なせぇ。100回振られたってまだ立ち上が ってるじゃねぇかィ」 「まぁ千鶴ちゃんかわいいからねぇ。知ってる?あの子あれで男装してるつもりなんだよ」 「そりゃ驚きでぃ!同じ男装でもとは大違いでィ。こりゃ勝ち目なんざ、ゴリラが人間様の嫁もらうくらい無ェな」 「うわーーーーん!!!」 「「わはっははっははは!!!」」 大笑いするW沖田、大泣きする。同情する者、あるいは同乗する者多数。 終「止めを刺したな」 一「いいのか、放っておいて」 終「構わん。泣いた後は大抵静かになる」 一「それで?」 終「布団の中から出てこなくなる」 一「・・・・・・・いいのか?」 十四郎「で、あれは誰だ?」 歳三「藤堂平助と雪村千鶴。・・・また増えちまったな」 十四郎「ま、明日にはタイムマシンが直る予定だからな。一晩くれぇ構わねぇよ」 歳三「そうか、明日か」 十四郎「・・・・・・・」 歳三「なんだ、寂しいのか?」 十四郎「寂しくねぇよ!!」 烝「あ、あの、さん?何か誤解しているようですが・・・・」 退「兄さん、甘い言葉は無用です。はっきり言ってやってください!」 烝「いや、君たちが思っているようなことは・・・」 退「じゃあ例えば!姉さんとあのかわいい子のどちらかを必ず娶らなくちゃいけないとしたら!?さぁ、どっちを選びます!?」 烝「そんなこと急に言われても――――」 退「さぁどっち!?」 烝「それは―――」 「ギャーー!聞きたくない!!あんな可愛い子が山崎さんの彼女なんて聞きたくなーい!!」 烝「な、なんでそうなるんです!?」 退「思い込んだら一直線の人間ですから」 「いやです、山崎しゃん、私だけのダーリンでいてくだしゃい・・・」 退「そもそもあんたのダーリンじゃないから!!」 烝「さん、落ち着いて下さい。ほら、ね?」 そう言って山崎さんが私の背中をポンポンと優しく撫でてくれる。 思わずそのまま抱きつくと、ふっ、と山崎さんが笑う気配がして顔をあげた。 烝「さん、とりあえずもう休みましょう」 「そそそそ、それは夜のお誘いと受け取っても!!!」 退「んなわけあるか!!」 烝「・・・・そうですね」 「「へ!?」」 烝「さんがこのまま良い子で寝てくれたら、添い寝してあげますよ」 「ねねねねねねねねねねます!!今すぐねます!!!」 烝「じゃあ部屋に行きましょうか」 「はい!!」 言われるままに部屋に戻り布団に転がると、すぐ横に山崎さんが寝そべってトントン、とまるで子守唄のように布団を叩いた。 夢心地で思わず山崎さんの胸に顔を押しつけて背中に腕を回す。 すると今度は長くて綺麗な指が私の髪を撫でる。 「おやすみ、」 その声がとても心地良くて。 襖の向こうから覗いているいくつもの視線に気付かず、山崎さんの心臓の音を聞きながら私はゆっくりと瞼を閉じた。 平助(うわっ、もしかしてあの人烝君の恋人!?) 歳三(・・・・どう考えてもガキをあやす親にしか見えねぇだろ) 総司(ねぇ、もちろん行くよね?) 総悟(行くに決まってらぁ。閨なんざにゃ百年早ぇや) 勲(どうしよう、トシィィイ!が大人の階段のぼっちゃうよぉおおお!) 十四郎(そりゃねぇだろ・・・・・・・・・・多分) 退(多分じゃ駄目だろ!!ぁああ!?いま俺すげぇ複雑なんですけどぉおお) 終(ふむ。姉の幸せと貞操への心配の板挟みか。普通に気持ち悪いぞ、シスコン) 一(しすこん?) 千鶴(と、いうかあの・・・・原田さんはこちらにはいないんですか?) (((((((あっ))))))) え?いきなり全員集合ってそれなくない?
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