「TORA☆TORA☆TORA☆恋は一途★」


ふふん、ふふん、と鼻歌を歌いながら、歌舞伎町内をスキップしながら歩く。

監察方としては失格なのだが、浮かれた気持ちは隠せない。

だってだって、今日の朝ついに山崎さんとデートの約束しちゃったんだもの★

そんな浮かれた中、廃刀令違反を見つけ、ぴたりと気配を消す。



今の私に逆らおうなんてバカは攘夷志士かはたまた単なる気違いか。

山崎、いきまーす!







土方?ああ、あのマヨラーの人?
え?違うの?じゃ、捨ててこい。











男は、長身長髪、紫の着物に袴、そしてご丁寧に腰に刀が2本。

というか、か、かなりイイ男なんですけど・・・・。

対象に気付かれないように屋根伝いに尾行しながら、懐の双眼鏡で美形を拝・・・いやいや、私には山崎さんというマイダーリンが!!








「おうおう、兄ちゃん、粋がって刀なんて差しやがって・・・」

「調子乗ってんじゃねーぞ、コラ」

「廃刀令?なに言ってんだ、お前ら」




あーあ、言わんこっちゃない!

そりゃ刀なんか差してたらゴロツキに絡まれるよって・・・・、なに、あんたらも持ってんじゃない、刀。

はいはい、全員廃刀令違反につき逮捕決定。

にしても、全員捕まえるのは骨が折れるし、勝負がついたあとの漁夫の利を狙いますか!




「って、え?」



事の成り行きを見守ろうとしたその刹那、だった。

美形に絡んでいた二人のゴロツキがあっという間に後ろに倒れる。

刀の柄で素早く二人の腹部を突いたのだ。それにしても速い。

きっと刀を抜かせたら、隊長格と同じくらい強いかもしれない。



(これは私の手には負えないかも・・・・)



そう思いながらも、これだけの強さ。攘夷派の可能性も考えればここで見逃すわけにはいかない。



(終さん連れてくるべきだったな〜〜〜)



仕事でペアを組むことの多い相棒を思い浮かべながらも、そろりと後をつける。

どうやら男は道が分からないらしく、あちこちに視線を巡らせながら歩いていた。

それにしてもキョロキョロと忙しない。特に空を眺める回数が多い。



(もしかして宇宙船が珍しいとか?一体どこの田舎者よ)



とか思いつつ、なんとなくその姿は初めてターミナルを目にした総司君や山崎さんと被る。

別の世界から来た二人には珍しい光景らしく暇さえあれば、空を見上げて宇宙船を眺めている。



(あ〜〜早く帰りたいなー。午後からデートする予定なんだから一分一秒も惜しいのに!!)



とかなんとか考えていたら、男が再び空を見上げた瞬間、隠れるのが遅れてしまった。



(げっ!バッチリ目があっちゃったよ!!)



屋根の上に乗っているのだから誤魔化しようがない。

こうなったら正面から行くしかないかと刀の柄に手を掛ける。






「おい、そこのお前。そこでなにしてやがる」



よく通る低い声。そして怖い。副長といい、美形が怒るとほっんと迫力がある!!


「それはこちらのセリフ。真撰組です。廃刀令違反で御用よ。大人しくなさい」

内心ビビってるのを隠しつつ、屋根の上から飛び降りる。

すると男は躊躇なく刀を鞘から抜いた。その姿はまるで一枚の絵のように恐ろしく様になっている。



「新選組だぁ?俺が新選組の土方歳三と知って名乗ってやがるのか?ふざけやがって。」

・・・・・・・は?

「は、じゃねぇよ!!大体ここは何処なんだ!廃刀令ってのはさっきのチンピラも言ってやがったが・・・・わけがわからねぇ!!」

え、ちょ、待って。貴方新選組の土方さん?もしかして土方歳三さん?


それは山崎さんが尊敬するあっちの世界の土方さんの名前だったはずだ。

いや、でもならなんで此処にいる!?混乱しながら尋ねると男は神妙に頷いた。



「俺を知ってやがんのか。此処はどこだ?それに空に浮かんでいるあの物体は一体・・・」

わわわわっ!どうしよう!本物だよ!マヨラーじゃない土方さんがこんな美丈夫だって聞いてないよ!何!?じゃあ山崎さん、こんなカッコいい人の腹臣やってんの!?オイシイ!オイシすぎるだろ!!二人が並んで歩いてたら歌舞伎町の雌犬どもが全員発情しちゃうよ!!そんなのこの私がゆるさーーん!!

「あん?なにいきなり大声出してやがる!」

「す、すいません、だってびっくりして・・・・あの、総司君と山崎さん知ってますよね?沖田総司と山崎烝さん」

「お前、やっぱり俺達を知ってやがんのか。長州の連中か!?二人をどこにやりやがった!!」



土方さんが私に向かって一閃する。それはあまりにも速く、私の二の腕を掠めて血が舞った。



「ちょ、ちょっと待って下さい!私は敵じゃありません!」

「だったら何故二人を知っていやがる!例え女と言えども容赦はしねぇ。覚悟しやがれ」

「わっ、わっ、ちょっと待って下さいよ!」



次々と繰り出される攻撃に、凄まじい殺気と剣圧に避けるのが精一杯。

ところどころ腕や脚を掠め、確実にこのままでは殺られる。

だが刀を抜くわけにはいかない。万が一でもこの人に傷でも付けたら・・・・



(確実に山崎さんに嫌われる!!)




山崎さんがこの人をどれだけ尊敬しているかは、もう耳にタコができるほど語られた(お茶に誘うと話題は確実に土方歳三さんのことだった)

絶対に刀を向けたくはない!けれど本当にこのままじゃ・・・・



「わっ!」



戸惑っている私の動きを、土方さんほどの達人が見逃すはずもなく、太ももが裂ける感触に私は地面に転がった。

体制を立て直そうと顔を上げると、首元に刀の切っ先。



「吐く気になったか」



本当に絵になる人だ。突き付けられた刀には自分の血がべっとりと付いている。その血の色さえ彼を引き立てるものでしかない。



「最初から観念はしてるんですけどね・・・・・」

「総司と山崎はどこにいる」




刀がすっと差し出され、私の首にチリっと痛みが走った。

思わず目を閉じた瞬間、ものすごい殺気が私達に向かって放たれ、土方さんの刀が弾け飛んだ。




「なっ!」

「てめー、なにやってやがんでぃ!!」

「総悟!」

「土方さん、無抵抗の女相手にこれはないんじゃない?見損なったよ」

「総司君!?」



土方さんの刀を弾いたのは、総悟の刀。そしてその土方さんに刀を突き付けたのは総司君だった。




「総司!無事だったのか!」

「無事じゃないよ。さんにこんな怪我させてどういうつもり」




総司君が刀を構える。総悟もまた、投げた刀を素早く拾い構えた。


「ちょちょちょ!!なにやってるの!この人土方さんだよ!総司君とこの副長でしょうが!!」

「お人好しは黙ってろィ。こいつァ一度斬らねェと気が済まねェ」

「だよね。ほっんと土方さんて人の話を聞かないんだから」

「全くですぜ。土方って名前の奴には耳が付いていねぇんじゃねェかい?」

「ついでに目も悪いらしいね。そんな目ならいらないですよね、土方さん?」

「土方なんて二人どころか一人もいらねぇ。たたっ斬ってやろうじゃねェか」

「同感。これで僕達二人とも副長の座は頂きだね」

「お前ら最後のが本音だろ!!私のことなんてほんとはどーでもいいんだろぉおお!!!」

「「なに当たり前のこと言ってる(の)(でぃ)」」



「なんだんだ、お前ら・・・総司、説明しろ!!」

「何言ってるの。さんの説明、聞こうとしなかったの土方さんじゃない」




総司君の言葉に、土方さんが戸惑いながら地面に転がった私を見つめた。

戸惑うのも無理はない。見たことのない場所に来た上に、探していた部下はわけのわからない連中と一緒になって自分に刀を向けているのだから。



「きちんと説明をします。だから話を聞いてもらえますか、土方さん」


ずるずると怪我をした足を動かして、刀を支えにしてなんとか立ち上がる。

本当は結構、いやかなり痛かったけど、土方さんの手前それを見せるわけにはいかない。



「・・・・わかった」


先に刀を納めたのは土方さんだった。

それに総司君が従い、しぶしぶ総悟も刀を納める。


「と、とにかく屯所に戻ろう!そしたら山崎さんもいるし、ね!!」

「山崎もお前らのところにいるのか」

「ええ、います。説明はそこでしますから」


私も三人に習い刀を納めると、支えがなくなり急に体が傾いた。

慌てて支えを探す手に、温もりが触れる。


「僕が運ぶよ。上司の不始末は部下の責任だし」

「総司君はすげぇや。俺なら絶対あのヤローの尻拭いなんてごめんでィ」

「こ、こら!!二人ともなんてこと言うの!!」


二人の辛辣な嫌味に、土方さんはぐっと眉間に皺を寄せる。

けれど何も言わない。うちの副長なら間違いなく怒鳴り散らしているところだけど、こちらの土方さんは随分大人なようだ(まぁうちの副長も年齢的には大人だけど中身は小学生以下のマヨラーだし)


「そ、総司君!」


そうこうしている内に身体が宙に浮き、私は慌てて総司君の服に縋りついた。

いわゆるお姫様だっこだけれど、それでは私の血が総司君の服についてしまう。

せめて血が止まらない太もも部分だけでもどうにかしようとしていると、しゅるりと患部に白い布が巻かれた。



「とりあえずこれで止血ぐらいにはならぁ」

「あ、ありがと、総悟」


捲かれたのは総悟の隊服のスカーフだった。

簡単な応急措置を受け、総司君に抱えれたまま屯所への道を歩く。

その間も土方さんは一言もしゃべらなかった。




































「土方さん!」

「馬鹿が、怪我してんじゃねぇか」


屯所に戻った私達を出迎えたのは、総悟の携帯で連絡を受けて待機していた山崎さんとうちの土方さんだった。

山崎さんが土方歳三さんに駆け寄ろうとするが、総司君が立ちふさがってそれを制す。


「山崎君、こっちの怪我人見えないわけ?」

ま、こんな色気のねーうるせぇ女より、大事な大事な副長さんの方が大切なのはわかりやすが、先にを診てやってくだせぇ。血が止まってねぇんでぃ」

「あ、あんた達、もう、いい加減嫌味言うの止めなさい!!」


W沖田を嗜めるが二人はどこ吹く風でそっぽを向く。

お前ら双子か!実はDNAどっか繋がってんじゃないのか!

頬でもつねってやろうかと思っていると、山崎さんがこちらを向いた。




「っ!!  失礼しました・・・・さん、とりあえず医務室へ」

「あ、はーい!(ぎゃー!山崎さんの顔が近い!)でも山崎さん、土方さんは・・・・」

「てめぇは俺が話をする。総悟、総司、てめぇらも来い」



私の言葉を遮ったのはうちの土方さんだった(以下ややこしいのであっちの土方さんは勝手に名前で呼ぶことにする)

煙草の煙を吐きながら目を細めて相手を吟味する様はいつ見ても迫力がある。

けれど歳三さんも貫録負けしてはいない。

全てを受け止める真っ直ぐな瞳で副長を見据えて、静かに頭を下げた。


















「大丈夫でしょうか・・・・土方さん。あ、山崎さんの方の」


医務室まで連れて来てくれた総司君はそのまま副長室へと赴き、謀らずとも山崎さんと二人きりになった私は、やけに静かな屯所内に落ち着くことができなかった。

山崎さんは今、私の足に包帯を巻いている(昨日ムダ毛の処理しておいてよかった・・・!)

二人きりはすごくうれしいけれど、それよりもなによりも、いつ爆発音がするかの方が今は重要で。

W沖田の予想以上のキレっぷりと嫌味っぷりに四面楚歌であろう歳三さんの心配をせずにはいられない。




「ありがとうございます・・・さん」

「え?なにがですか?」



そんな中、包帯を巻き終わった山崎さんは私に向かって静かに頭を下げた。
(この人も歳三さんに負けず、何をしても絵になる人だ)


「先ほど沖田さんが言っていました。土方さんが刀を向けても、貴方は刀を抜かなかったと」

(それは主に山崎さんに嫌われたくなかっただけなんだけど・・・!)


私の手を取って、真っ直ぐな瞳で私を見つめる山崎さんに、正直見惚れる。

そしてその瞳は歳三さんととてもよく似ていて、やっぱり部下と上司なんだな、と思わせた。


「私は真撰組の人間ですから。同じ”しんせんぐみ”の仲間を傷つけるわけにはいきません」


なーんて、それっぽいこと言ったけど、正直それどころじゃないくらい心臓ばっくばく!

これはもう恋愛フラグじゃね!?ビンビン立ってるんじゃねぇの!と自分の胸を押さえながら山崎さんに向かって(自分で出来る限りの)笑顔で笑って見せた。


さん、本当にありがとう」



山崎さんが御返しに見せてくれたのは、とても優しげな微笑み。





これはも・ら・っ・たぁあああああ





「や、山崎さん!!」

「はい?」


思い切って山崎さんの右手を両手でがっしりと掴む。

もうこれはいくしかない!いける!大丈夫、私いけるよ!!!

と口を開こうとしたその瞬間、







「へーい、そこまででぃ!!」






医務室の襖がバンっと開かれ、そこには我が家の破壊神の姿。

やはりと言うか、やっぱりというか、そうだよね、うん、分かってた、このオチ。

お前がいる限り、私に春は来ないのだと今確信した。














その後、状況を理解した歳三さんに謝罪され、土下座しろと喚く沖田ズを一喝し、なんとか事態は収拾した。

そして当たり前のように歳三さんもうちで居候することになったのでした。














(・・・・・・・・・・・はっ!?そういえばややや、山崎さん!あの、今日のデート!!)

(何言ってるんですか!この怪我で出歩けるわけないでしょう?今日は一日安静です)

(そ、そんなぁ・・・・・!!!)

(あん?なんでぃ、俺らに内緒でデートの約束なんてしてやがったのかぃ?こりゃあ天罰だぜぃ)

(そうだよね。全くさんたら、僕等に内緒でいい度胸してるよね)

(黙れ悪魔ども!!!)