「山崎さん、山崎さん、一緒に散歩行きませんか?新しい茶屋が出来たんです」

「兄さん、兄さん、実は相談したいことがあるんです。ちょっと部屋までいいですか?」



「ちょっと退、山崎さんは私が先に誘ったんだから、退きなさいよ、名前の如く」

「姉さんこそこっちは仕事なんだから、遠慮してよ。というか仕事してよ、いい加減!!」





「ああん!?あんた一体いつから私に逆らうようになったんだ、コラ、退のくせにぃいいい!」

「ぎゃー!!助けて、兄さん!姉さんだって昔はそれなりに優しかっ・・・・・
あれ?全然ない!姉さんが優しかったことなんて全然ねぇ!!」




さんも、退君も、喧嘩しないで下さい。ほら、一緒に並んでお茶でも飲みましょう」


「「はーーい!!」」((ちっ・・・・!))







「山崎君いつのまにあの姉弟を手懐けたわけ?」

もジミーも情けねぇ。新参者に手懐けられるたぁ真撰組の名が廃るぜィ」
















”新選組”が真撰組にやってきて二日目。

良くも悪くも隊士達に気に入られた二人は、真撰組局長近藤勲の好意もあり真撰組隊士として働くことになった。

元々監察方である山崎さんはそのまま監察方兼副長補佐に、そして総司君は総悟の猛烈な説得により一番隊に所属することに。



「近藤さん・・・俺はやっぱり総悟と総司はなんとしてでも引き離しておくべきだと思うがな」

「いいじゃないか、トシ!あんなに総悟が総司君と一緒がいいと言うんだから。思えば総悟は同い年くらいの友達がいなかったからな!せっかく仲良くなったんだ!」

「その結果、世界が滅びるようなことがなきゃいいんだけどな。あ、マジ胃が痛くなってきた・・・烝ゥ!胃薬くれェ!」

「十四郎さん、どうぞ」

「ああ、すまねぇな」

「はっはっはっ!烝君もすっかり馴染んでるなぁ。医学にも通じているとは心強い!・・・・君、惚れ薬とか作れない?

「(惚れ・・!?)・・・・・・・申し訳ありません。自分はそのようなものは・・・・」

「はっはっはっ!いやいやいやいや冗談、冗談・・・・じょ、冗談だよ、だからそんな冷たい目で見ないでくれるかな、キミタチ」

「見損ないましたよ、局長。女性を薬でどうにかしようなんて最低ですね。下劣」

ぎゃああああ!!ちゃん、いつからそこにいたの!?

私の山崎さんが、副長に呼ばれたところからです、局長もとい変態卑猥下劣男」





飛びあがって大袈裟に驚くゴリラに冷たい視線を送る。

するとダラダラと滝のように汗をかいたゴリラがふんふんっと腕を振り回し始めた。



「さ・あ・て、仕事仕事ーーーー」

「とか言ってお妙ちゃんのところなんか行ったら、今度こそメスゴリラと結婚させますからね」

トシィイイーーー!仕事、仕事するぞーーー!!!

「はいはい頑張って下さい。ほっっんと仕事して下さいね。真撰組局長がストーカー容疑で逮捕とかマジありえないんですから」



腐ってる局長。あ、間違えた、腐っても局長の近藤さんには当然ながら激務が待っている。

とりあえず見張りも兼ねてお茶でも淹れあげようと席を立つと、後ろから退が付いてきた。




「姉さん今日の仕事は?」

「桂がある店でバイトしながら資金集めしてるって情報が入ってる」

「俺も行くよ。どうせ一人で行くつもりなんでしょ?」

「大丈夫、一応、終さんと行くことになってるから。あんたはW沖田見張ってなさい。副長命令出たでしょ」

「・・・・・・・・・それ、やっぱり有効なんだ」



がくりと肩を下げる退(あ、ダジャレみたくなった)

まぁ、あの超絶Sの破壊魔二人の面倒を見ると思えばそれも仕方がない。

あの二人を同じ隊にした局長の責任を問いたくなるところだが、その気持ちも分からなくはないのだ。

誰にでも一線を引いて本心を隠そうとする総悟に初めて出来た気の合う友人。

そして私が思うに総司君も似たようなものなのだ。あの笑顔で周囲を拒絶し、本当に極少数の人間にしか心を許さない。

総司君が慕う”近藤”さんがどのような人物なのかは分からないけれど、あの二人を見たら、きっとこっちの近藤さんと同じような顔をして笑うんじゃないだろうか。





「じゃあ兄さんとの約束もしばらくお預けだなぁ・・・」

ぽつりと退が呟く。それを私は聞き逃さない。

「ちょっと!いつの間に山崎さんと約束したのよ!なにを!なにをぉおお!」

「いたいたいたいたいたっ!姉さんに言ったら邪魔するから絶対言わない!!」

「どうせミントンだろ!?ミントンする約束でもしたんだろ!
お姉ちゃんはまるっとお見通しでぃ!!」




なんてことだ。桂の行動次第では何日で戻れるかわからないのに。

真面目・誠実・精悍とこの世のイイ男の条件をすべて揃えた山崎さんとの時間を共有できないとは!!

くやしさのあまりガクガクと愚弟の胸倉を揺すると、すっと横から細いながらも逞しい腕が私に触れた。





さん、俺は貴方の帰りを待ってますから」



そう言って山崎さんの腕があくまでさりげなく退から私を引き剥がす。




「じゃあじゃあ、山崎さん私とも約束してくれますか!?」


退とだけ約束するなんてずるいとばかりに懇願して顔の前で両手を握って”お願い”のポーズをしてみる。

横から聞こえた「そのポーズ、自分の年考えてみろィ、」という総悟の言葉はガン無視。後で覚えてやがれ、総悟!



「はい、なにがいいですか?」


横目で総悟を睨む私とは裏腹に山崎さんは一輪の花が舞いそうな笑顔で応えてくれる。

ああ、私が求めていたのはこれだったのよ!

毎日毎日ストーカーゴリラとキモオタ入ったマヨラーと超S王子の上司に囲まれて、日々味わった苦労の日々は全てこの人と出会う為の試練だったのよ!



「行きつけの甘味屋でカップル限定のイベントがあるんです!それに一緒に行って下さい!」

「(かっぷる・・?)ええ、いいですよ」


少し小首を傾げながらも了承してくれた山崎さんに私の脳みそに花が飛ぶ。

そうと決まったら、こうしてはいられない。

さっさと桂の動向を探って、一刻も早く帰らなくては!

いっそのこと情報はデマであればいい。いや、きっとデマだ!デマのはず!!!



「終さーーん!!終さん、行くよーーーー!!!」

「そう、大声で呼ばんでも、此処にいる」

「うわぁ!!!気配消して後ろに立たないで下さいよ!根暗なんだから、もう!!」

「・・・・・そうかそんなに公衆の面前で辱められたいか。別に俺は構わん。お前に女の拷問法というのをたっぷりじっくりねっとり教えてやろう、惚れた男の前でなどさぞかし見物だろうな」



いきなり背後から現れた終さんがボソボソと私にしか聞こえないように呟く。

三番隊隊長 斉藤終(しゅう)、総悟と二人で真撰組の双璧と呼ばれるほどの居合いの達人だけど、とにかく暗い。そして超がつく毒舌家(しかもねちっこい)

総悟が破壊攻撃系なら終さんは精神攻撃系だ。真撰組で怒らせちゃいけない人としても総悟と二人で双璧だ。




「すいません、ごめんなさい、ちょっと独身生活に春が来そうで浮かれてたんです」

「ふむ。まぁ浮かれるだけなら構わんが、どうせガスが抜けて皮になるのがオチだ。今のうちに諦めて、総悟の餌食にでもなっておけ」

「え、やだよ、なんで総悟?そこは俺のものになれ、じゃないの?」

「それは人生最大の罰ゲームだと知れ」

「・・・・・・・・そんなに力いっぱい否定されるとすごく悲しい気分になるんですけど・・・」

「今のお前の気分がそのままお前に迫られている山崎烝の心境だ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・生きててごめんなさい」

「分かれば良い」




相変わらずの毒舌に勝てず、さっきまでの浮かれ気分が吹っ飛ぶ。

そのままずるずると引きずられ、山崎さんに「行ってきます」を言うことも許されず、屯所を後にした。(あ、近藤さんにお茶淹れられなかった)






















結果から言うと。

桂の情報はデマだった。まぁ、歌舞伎町で偽名使って働いていること自体は本当らしいので、今度は歌舞伎町に網を張ってみようという結論に達し、なんとか日付が変わる前に屯所に帰ることが出来た。

終さんにマヨラーへの報告を任せ、さっさと寝ようと自室の襖を開ける。すると中から人の気配がした。






「ちょっ!!!何やってんの、総悟、総司君!!」

「ジミーに布団という任務を与えてるんでさァ。いやぁ、人肌はあったけぇや」

「いやいやいやいや!人肌っていうかそれただの簀巻でしょうよ!!温もりなんて一遍も感じてねぇだろ!!」

「なに言ってるの、ちゃん、ちゃんと感じてるよ。足の裏で


部屋の中には私の布団でぐるぐる巻きにされた退が、W沖田の間をサッカーボールのように行き来していた。



「ちょっ、私の布団!てか人の部屋でやんな!襖に穴が開いてるでしょうが!!」

「心配するとこ違うでしょうが!!あんたの弟いま瀕死だから!!助けてにいさーーーん!!!」

「はっ!?そうだ、山崎さんは!?せめて寝顔だけ拝んで写メ撮って印刷してポスター作ってから寝ようと思ったのに!!!」

「そりゃ著像権の侵害でさァ。立派な犯罪ですぜィ」

「破壊神のお前らが言うなぁああああ!いい加減、その黄金の足止めんかい!!」





目がグルグルとうずまきを巻いている退を二人の足の間から救出して布団を解こうと必死になっていると、総司君がかた結びに奮闘している私の耳元でポツリと呟いた。



「残念だけど、山崎君はそっちの土方さんと外出してまだ帰ってきてないよ」

「ぇ・・・・・ぇえええええ

「ついでに言うと、が誘ったカップル限定イベントってのは今日でお終いでぃ」

「ぇ・・・・・ぇえええええ



って、ことは今日一日の頑張りが全て無駄に!?

方針状態の私の足元でぐすぐすと退が涙を流す。


「俺も今日約束してたミントン出来なかった・・・・」

「やっぱミントンだったのかよ・・・・!!」



退にツッコミながらも、なんとなくつられて私もえぐえぐとくやし涙を流す。

すると沖田ズがそりゃあもう、ものすっごい笑顔で微笑んだのだった。



「いやぁ、今日も一日充実してまさァ」

「ほんと、生きてるって素晴らしいよね!」



「「うわーーん!!」」




















深夜遅く任務から戻った土方は、山崎烝を伴い真撰組の門をくぐった。

愛用の煙草に火を付けながら耳を澄ますと、バタバタと騒ぐ声が聞こえため息を吐く。





「夜中だってのに、なに騒いでやがる」

そう口では言いながらも、騒ぎの中心が誰かなんて確かめなくても分かっている。

突然の御偉方からの呼び出しで気が立っていた土方は鍔鳴りをさせた。


「十四郎さん、自分が見てきましょうか?」


これから土方が何をするつもりか察したのか、自分と新選組の土方という男を混同しない為に普段あまり呼ばれない下の名前で呼ぶ”『山崎』がスッと前に出た。


「気遣いはありがてぇがお前じゃ総悟は止められねぇよ」


決してこの『山崎』を馬鹿にしているわけではない。

冷静沈着、品行方正、真面目を絵に描いたようなこの男は、監察方という仕事に関しては恐らく一流の類に入るだろう。

だが、生真面目ゆえに総悟、いやW沖田とは相性が悪い。


「あの二人が一緒だと大変でしょう。せめて沖田さんの相手だけでも自分がします」


土方の言おうとしたことが分かったのか、少し眉尻を下げて歩きだす。

確かにあの二人相手は認めたくないが、分が悪い。ともに剣の天才、加えて性格の悪さも天才的。



仕方なく、山崎を伴い騒ぎの聞こえる場所まで行くと、そこは廊下の最奥、の部屋だった。

部屋を覗くとW沖田にはがい絞めにされ、何故かメイド服を着せられていると退の姿が。姉弟揃ってお揃いのメイド服に、首輪まで付けられて二人ともぐすぐすと泣きながら総悟の靴を磨いている。

その後ろには二人を足蹴にする総悟と、それをにこにこと子供をあやすかのような笑顔で眺めている総司。








なんだこの地獄絵図は




一体なにがあったというのか。





スパーン!!





その瞬間、土方は勢い良く部屋の襖を閉めた。

そして今見た光景を忘れようとブンブンと頭を振る。

どうかしたのか、と烝が部屋を覗こうとすると、それを土方が身体を使って押し留めた。

真撰組の人間が揃いも揃って奇行に走っている姿などとても烝には見せられない。
(もっとも一番怖いのはそれを笑顔で眺めている総司な気もするのだが)


嫌な汗が出てくるのを感じながら、土方は烝の肩を両手でガッと掴んだ。








「烝、お前この国にいる間だけでいいから、名前変えろ」

「は?何故いきなりそんなことを?」

「いいから悪いことは言わねぇ。改名しとけ。この国じゃ山崎って名前は不幸を呼ぶんだ

「は、はぁ・・・・、というか、その、部屋の中には誰がいたんですか?」

誰もいねぇなにもねぇ。いいから寝ろ、そしてお前の名前は
明日からススム・マヨリン・2世だ


それは辞退させて頂きます

何故だ!!栄光あるマヨリンの名だぞ!ちなみに1世は譲らねぇ!!!

論点はそこではありません!







一日一歩三日で十歩下がるのが山崎だ。
進む奴はむしろ山崎じゃねぇ。











(オラオラ、奴隷共、そんなんじゃいつまで経っても終わりませんぜィ)

((うわーん!!!))

(ほんと、見てて飽きない人達だよね)