天幕に残されたはしばしの間呆けていたが、大きな蹄の足音に自我を取り戻した。 起き上がろうとするも、夏侯惇との口付けで身体の力が抜けてしまったようで、中々立つことが出来ない。 唇にはまだ熱が残っているようで、無意識の内に唇が『エン』の名前を口ずさんだ。 「ねぇ、貴方夏侯惇さんの恋人?」 「え?」 それはあるはずのない声。聞こえるはずのない音。 自分しかいないはずの小さな天幕の中に響いたのは甲高い女の声だった。 「だとしたらいいもの見ちゃった!貴方を人質に取ったら、夏侯惇さんどんな顔するかしら?」 「あ、貴方、誰!?」 「私のことはどうでもいいの!それより自分の心配したら?」 「きゃあ!!」 ぬっと、後ろから細い手が首に絡む。 ぴたりと密着した肌は冷たく、生きている人間の気配がまるでなかった。 振り返ってすぐに見えたのは、青白い肌の美しい女の顔。それは人間ではありえない化け物のそれだった。 絆IF物語。もしもOROCHIの世界に落ちたら9妲己の手によって無残にも衣服を切り裂かれたが連れてこられたのは、名前も分からぬ城の牢の中だった。 文字通り身ぐるみ剥がされた状態で、身体を隠すものはブラジャーと下着のみである。 妲己は妖術のようなもので、あっという間にこの城まで来ると、牢にを放りこみ、そのまま姿を消してしまった。 救いは、見張り兵一人いないことだろうか。 なにもかもがあっという間で叫び声一つ上げられないまま、ここへ連れて来られたが、一人になってようやく自分の状況を理解し、じわじわと恐怖心が込み上げてきた。 助けを呼びたくとも、この格好では敵兵に見つかるわけにはいかない。 恐怖心を懸命に堪え、流れ落ちる涙を拭いながら牢の中を見渡す。 牢は木造ながら頑丈で、とても掻い潜れるような隙間はない。 だが床が畳なのが気になった。日光の映画村で見たことがある。これは、座敷牢じゃないだろうか。 ならば、ここは。もしかして日本の城のどれかなのだろうか。 は既に戦国の者達が、自分の知っている歴史の偉人達と同一人物でないことを知っていた。 そしておそらく三国の者達、魏延達も自分が生きた世界の偉人達とは異なるのだろう。 深く考えても、ただの女如きにその謎はあまりに大き過ぎる。だから敢えて考えないようにしてきた。 今、此処に共に生きている―――その事実だけが真実なのだから。 逃げなければ。 泣いている暇なんかない。この世界がなんなのか分からないけれど、皆確かに生きている。 心配してくれる人がいる。会いたい人がいる。 涙を拭い今度こそ立ち上がる。何もない牢の中で脱出する方法はないかと手探りで牢の中を這いずり回った。 誰も見ていないのだから、裸だって構わない。 こうなったら畳をひっぺ剥がしてやろうか、と思って顔を上げる。 すると、そこには。 壺が一つ、鎮座していた。 「きゃあ!!」 さっきまで何もなかったはずの空間に音もなく現れたそれに、堪えていた悲鳴が喉から飛び出した。 後ろに尻もちをついたが、そんなこと気にしていられない。 もしかして妲己の悪戯だろうかと思い、視線を動かすが当然のようになにもない。 恐怖に動けずにいると、ふいに頭の上から声が聞こえた。 「くくくっ、我は壺の精なり。願いを言うが良い」 「え?え?」 からかうような口調は、どこかで聞いたことのあるような声だった。 身体を隠すことも忘れて思わず上を見上げる。が、誰もいない。 「願いを言え。我に乞うが良い」 それは何かを促すかのように笑い声と共に繰り返される。 願いと引き換えに求められる対価はなんだろうか。それはまるで魔女との取引のよう。 願いと同等の対価を奪われる。それが取引。 でも、迷ってる暇なんかない。多分、ううん、絶対、チャンスは一度きり。 は恐る恐るそれを口にした。 「私を・・・・・助けて下さい」 「その願い叶えよう」 それはまるでアラジンに出てくるランプの精のように。 青白い肌をした男が突如目の前に現れ、次に瞬きした時には牢の中には誰の姿もなかった。 「それは真か、袁紹殿!」趙雲 「もちろんだ、すっかり思い出したぞ!劉備は江戸城にいる!」袁紹 「まずは吉報」島津 「劉備・・・助ケル!」 虎牢関の戦いを制し、蜀の反乱軍がようやく手に入れた情報は劉備が江戸城に幽閉されているというものだった。 ようやく得た朗報に皆が希望を見出す中で、魏延は彼の人を思い浮かべる。 全く何もかも分らぬまま、離れ離れになってしまった愛おしい人。 戦う術を持たぬ彼女がせめて戦いから逃れていてくれればいい。この世界はあまりに過酷過ぎる。 「・・・・・・・」 夜空を見上げながらその名を呟く。 共に月を見上げたのはいつの日だったか。 「ガ?」 物思いに耽る魏延、しかし魏延と月の間を遮るものがあった。 四角いものが丸い月の中に浮いているのだ。 そしてそれはみるみる内に大きくなって、あっという間に月を覆い隠してしまう。 「ガァ!?」 「は〜〜〜い、ご執心!!」くのいち 「く、くのいち!!」幸村 それは魏軍の反乱軍にいるはずの、真田幸村の部下、くのいちであった。 三国の者には思いもよらぬ方法、巨大な凧に乗って、悠々と此処までやってきたのだ。 着地直前にくのいちがくるりと身を翻し地面に着地する中で、その凧は魏延の上に覆い被さった。 「ウガ!ウガ!」 「魏、魏延殿!申し訳ない、すぐにお助けしますので!!」幸村 「にゃははーー!ごめんにゃさい!」くのいち 大きな布にすっぽり覆い隠されて慌てる魏延を幸村が助ける。 くのいちに怒声が飛ぶものの、彼女は全く悪びれもせずに謝罪の言葉を口にする。 「くのいち、お前一体なにをしにきたんだ!」 「もちろん、情報を届けにですよ〜幸村様!実は江戸城に・・・」 江戸城、という言葉に幸村と趙雲は顔を見合わせた。 「くのいち殿、江戸城に劉備殿が捕らわれているという情報は既に我らも聞き及んでおります」趙雲 「ほぇ?劉備?蜀のお殿さまって江戸城にいたんですか?」くのいち 「? そのことを伝えに参ったのではないのか?」幸村 二人の武将の言葉にくのいちはパチパチと瞬きを繰り返す。 そして違いますよぉ〜〜と口を尖らせた。 「私は魏延殿が探してた””って人の情報を届けにきたんですぅ〜〜〜」 「「「「!!!!」」」」 くのいちの一言に反応したのは言うまでもなく蜀の面々だった。 国の主が不在の今、魏延や他の人手をの捜索に狩り出すことの出来ない状況だったが、それでも皆気にかけていた。 誰もが、無事でいて欲しいと切に願っていた。 だからこそ。 「・・・何処ダ・・・!?」 「は無事なのですか!?まさか江戸城に?」月英 蜀の武将達がくのいちに迫ると、くのいちはにやーといやらしい笑みを浮かべてパッと身を翻す。 そして一瞬で、高い塀の上へ身を移すと、注目〜〜と声を上げた。 「あるところに捕らわれの姫君ありけり。 姫君はかの江戸城に幽閉され、そこに駆け付ける二人の男ありや。 果たして姫君の運命は!? 姫を助けるのは隻眼の将か、それとも寡黙の将か! 結末やこれいかに!べんべん!」 「くのいち!それはどういう!?」幸村 「へっへ〜いや〜幸村様にも見せたかったなぁ。男二人の女の奪い合い!」くのいち 「まさかそれは、に言い寄っている男共がいるということですか!?」月英 「ガァ!!!許サヌ!!!」 「隻眼・・・夏侯惇?では寡黙の将というのは・・・誰?」星彩 「にゃっはは〜〜!魏延殿も早く行かないと、奪われちゃうぞ!ではドロン!また来週〜〜」くのいち 「こ、こら、くのいち!待たないか!」幸村 騒がしく現れたくのいちは、大きな波乱を残して消えた。 魏延は趙雲を見据える。趙雲は困ったように眉を寄せた。 「しかし・・・劉備殿を助けようとしている今、一人でも多くの力が必要だ」趙雲 「ガァ!!趙雲!!」 「では趙雲殿は、を見捨てろと、そう仰るのですか!?」月英 「そうではない!しかし・・・・」趙雲 何よりも大事なのはまず劉備を、国の主を助けることだ。 その為に、何もかも犠牲にする覚悟が趙雲にはある。 現に仲間である諸葛亮とも闘ってきた。の事は趙雲とて心配だが、それでもたかが侍女一人に割ける戦力はない。 「見損いました、趙雲殿」星彩 「せ、星彩まで・・・」趙雲 趙雲を責めるように皆がにじり寄る。すると、趙雲を庇うように二つの影が現れた。 「それならばその戦、立花が請け負おう」 「愛しき者を救う、それでこそ男の戦よ!」 島津義弘と立花ァ千代だ。 「魏延殿、劉備殿を救う戦、立花が助太刀する」立花 「魏延殿の代わり、この戦屋努めてみせよう」島津 「ガァ!・・オ前タチ・・スマヌ・・・」 「ならば私達が道を開きます。その隙に本隊は殿を、魏延殿はを・・・必ず救い出して下さい!」月英 「我、戦ウ!!」 「「「「「おおーーー!」」」」」 獣が月に向かって吠える。それに続き、皆も猛る。 そしてそれが戦の開始の合図となった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 反転すると「」の後にそのセリフを言った人物の名前が出てきます。 急に登場人物が増えたのと、OROCHIと戦国無双未プレイの方の為に考慮しました。 まぁあまりいないかもですが、OROCHIはともかく三国やると戦国も自然と手が出ますよね。 これで三つ巴が完成。そして壺の妖精が出てくると当然あの忍も再登場です。 |