「伝令ーーー!OROCHI軍強襲!OROCHI軍強襲!!」



「なに!?」


その声に一瞬にして、夏侯惇が身を翻した。

己の武器を手にして蹄の音がする方向へと駆けていく。





そして残されたのは唇を奪われたままの、女が一人。











絆IF物語。もしもOROCHIの世界に落ちたら8















夏侯惇がを連れて天幕へ消えてまもなく、夏侯淵の元に見張りの兵が飛び込んできた。

ものすごい勢いでOROCHI軍がこちらへ向かってきているという。

OROCHI軍の蹄の音が地響きのように、みるみる内に周囲をのみこんでいく。





「と、惇兄!惇兄ぃーー!!!」

「聞こえている。非戦闘員は後ろに下がれ!!迎え撃つぞ、前進しろ!!」

「「「「おお!!!!」」」」




天幕から飛び出してきた夏侯惇が淵の隣に立ち指示を飛ばす。

戦えない人間が巻き込まれないよう、夏侯惇はあえて兵に前進の指示を出した。

兵達もそれに従い、それぞれの武器を手に駆け出していく。己の、家族や友人を守るために。




「ちくしょう、なんだっていきなり」

「連中に昼も夜もない。だが、妙だな・・・・」

「なにがだよ、惇兄?」

「人間の兵が見えん。見えるのはOROCHI軍の兵ばかりだ」

「その方がやりやすいじゃねぇか!無理矢理従わされてる人間兵相手じゃ本気も出せねぇ!」

「それはそうだが・・・・・なにかあるのか・・・?」

「惇兄!・・来るぜ!!」




爆音を合図に、OROCHI軍と反乱軍の刃がぶつかり合う。

化け物達の相手を、もう何度経験しただろうか。

もはや臆する者など居はしない。誰かが雄叫びのような声をあげれば、それに呼応するかのように兵達が唸りを上げて武器を振るう。

夏侯惇も一歩も引くことなく、次々と化け物たちを打倒していく。

だがやはり妙だった。目視で確認出来るのは雑魚兵ばかりで、将らしき者がいない。

敵将を狙うのは戦の定石。指示を出している者がいなくなれば、自然と兵は負けを悟る。

疲れを知らぬ化け物相手では長引けば不利になる。夏侯惇は敵将を探すべく、戦場を駆けた。





































「将軍!まもなく孫策軍が到着致します!」



伝令が伝えたのは先日合流したばかりの孫策軍の援軍の知らせだった。

ごく近くで野営をしていた為、すぐに異変に気付いてくれたのだろう。その知らせは兵に安堵をもたらした。



「よっしゃ!お前ら、もうちょっと踏ん張れよ!!」

「「「「おお!」」」


夏侯淵が激を飛ばす。敵は多勢だが、挟み撃ち出来れば物の数ではない。

吉報に夏侯惇が馬の轡を取る。そして淵に向かって声を上げた。



「淵、俺は後方に回る。敵の将が見えんのが気になる!ここは任せたぞ!!」

「おう!ささっと片付けちまうぜ!!」



従兄弟の頼もしい返事に口端を上げながらも、どこか不安が拭えなかった。

それは戦場で培った勘に等しいが、暗雲に包まれているような悪寒が拭えない。

馬を後方の天幕の方角へ走らせる。

あのような行動をした揚句放って出てきてしまいを怒らせただろうか、この騒ぎに怯えてはいないだろうかと今すぐの元へと駆けつけたい己の心を叱咤して、天幕を通り過ぎようとして―――――気付いた。




「!」



禍々しい気配。いや、妖気と言ってもいいかもしれない。

それはのいる―――すなわち夏侯惇の天幕から隠すこともなく流れ出ていた。




!!」




名を呼んで天幕に騎乗したまま飛び込む。

天幕内の惨状に、夏侯惇は息を呑んだ。

そこには、

の衣服が、まるで夏侯惇を挑発するかのように、刀を突き立てられ無残に土の上に転がっていた。






























天幕から飛び出した夏侯惇はすぐさま前線へと駆け抜けた。

だがそこにいたのは自軍の兵と孫策軍ばかりでOROCHI軍の姿が見当たらない。

夏侯惇の姿を認め、淵と孫策、それに周泰がこちらへ視線を向けた。

怒りで身体が震えて言葉にならない夏侯惇に気付かずに、淵が明るい声を出す。



「惇兄!あいつら、援軍が来たらあっさり引き下がっちまったぜ!」

「奇襲してきた割には味気のねぇやつらだずぇ。なぁ、周泰?」

「御意」



さのみ被害も出ていない。一体何をしに来たんだが、と笑う淵に夏侯惇は怒鳴り散らしたい衝動を必死で抑えた。

何をしにきたのか。それは人質を取りにきたのだ。

孫堅を、劉備を、人質にとったのと同じように。それが連中の常套手段だと嫌となるほど知っていたのに!

恐らくは妲己の策。そして夏侯惇の失策。

なぜ武将でも姫でもないを連れ去ったのか―――おそらくこちらの様子を伺っていた妲己に見られていたのだ、先程の二人の様子を。






俺の、せいで。





腹にうごめく殺意と湧き上がる自責に叫びたくなる衝動を必死で堪え、夏侯惇はそれを口にした。



「淵、よく聞け。――――――が、連れ去られた」

「は?・・・・・・はぁ!?」

「どういうことだ?」

「!!」


「俺の天幕にいたはずのの衣服だけが切り裂かれて残されていた。おそらく、妲己の仕業だろう」



「「「!!!」」」




その場の全員が目を見開いた。その瞬間、周泰の暁の刃が夏侯惇を襲う。



「・・・・貴様!・・・」

「よせ、周泰!」

「と、惇兄!!」



それは首筋でぴたりと止まる。だが孫策の呼びかけにも周泰は刃を下ろそうとはしなかった。

紙一重で首の皮に触れそうな刃を前に、夏侯惇があえて足を前に進める。

当然のように夏侯惇の首に暁が触れ、一筋の血が流れた。だが二人とも微動だにしない。



「周泰、命令だ、刀を引け!夏侯淵、確かってのはこの前あった蜀の民だよな?」

「お、おう!俺と惇兄にとっちゃ大事な仲間だ!妲己のやつ、ただじゃおかねぇ!!で、でもよ・・・」



何故周泰が夏侯惇に怒りをぶつけているのか、それが淵と孫策には分からなかった。

孫策と会った時にはまだ周泰はOROCHI軍に従軍していた。接点はないはずだ。



「貴様、に惚れているな」


夏侯惇が口上を切った。



「・・・・貴様も、か・・・・」

眉一つ動かさずそれに周泰も答える。


「ああ。最早隠しはせん。は俺が助ける。貴様の手は借りん」

「・・・抜かせ・・・」

「淵、そういうことだ、俺は行く。軍を頼む」

「ちょ、ちょっと待てって!まさか一人で行くつもりかよ!?」




どんどん進んでいく事態についていけず、淵は泣きそうな声を上げた。

が連れ去れてたというだけで大事なのに、何故か周泰がに執心していて、その上惇兄が一人でOROCHI軍へ乗り込むなど。

だがそんな淵の肩を、孫策が掴む。



「ああ、行ってこい。だが単騎で行かせるわけには行かねぇな」


にっと笑いながら、周泰を見据える。


「行け、周泰。欲しい女を奪い取ってこい!」

「御意」


孫策の言葉に周泰は頭を垂れる。

妻である大喬が人質に取られている状況下で、誰よりも周泰の気持ちを分かっているのは孫策なのだ。

ましてや服を剥がされて敵地に連れて行かれたとならば、悠長にしている時間はない。

孫策の心遣いを胸に、周泰も己の馬に飛び乗った。





「ちっ・・・行くぞ」

「・・・・命令するな・・・」






二頭の馬が駆けだしていくのを、なにも知らぬ兵達が見送る。




「畜生!惇兄、頼んだぜーーー!」



夏侯淵は泣きたくなる気持ちを押さえながら、天にも祈る気持ちで叫び声を上げた。




















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やっとここまで進んだ・・!呉越同舟・・そんな関係が好きです。