*本編連載終了後設定 三国無双6新キャラ登場









ふと魏延は部屋の中に違和感を覚え、キョロキョロと周りを見回した。

気配、というほどではないが、なにかがおかしい。

意味もなくウロウロと部屋をうろついてみるが何も変わらない・・・ように見える。

首を傾げつつも何気なく上を見上げると、そこには蝙蝠のように逆さ向きに天井に吊る下がっている子供がいた。



「ガ」



驚きに口をあんぐりと開けると、子供も魏延に驚いたのか、ポロッと子供が天井から木の実のように落ちてきた。

慌てて腕を広げて抱きとめる。

子供はもぞもぞと腕の中で動いたかと思うと、思い切り腕にかみついてきた。まぁ、痛くはないが。

赤毛の髪が鼻の辺りまで無造作に伸び、顔がほとんど見えない中で、前髪の間から覗く瞳だけがギラギラとこちらを睨みつけている。

それはまるで幼い頃の、まだと出会っていない頃の自分のようで、魏延はもう一度、「ガ」と声を上げた。







絆IF物語


〜もしもBASARAの風魔小太郎(4歳)が絆夫婦の元に落ちてきたら〜








よじよじと自分の身体を登って右肩から胸へ、胸から左肩へ、背中に回ってまた右肩へ。

そんなことを繰り返している子供を好きにさせておきながらどうしたものかと考える。

今、妻のは月英と星彩と共に街へ出ているから帰ってくるのは夕刻だろう。

子供は初めこそ敵意を示したものの、痩せた体を魏延が案じ、特製の握り飯を与えると、まるで犬のように魏延に懐いた。

と言っても警戒心がないわけではない。いつなにがあってもいいように、最低限の構えを解かない子供に、この子供は既になんらかの訓練を受けているのだと感じる。

魏延の身体を絶えず這い回っているのは単に知らぬ場所に落ち着かないだけだろう。





どうしたものかと考え、昔がしてくれたことを思い出す。

名を聞こうにもどうにも口を利かぬ子供に、そこだけは自分と違うな、と思いながら、やはり肉だろうかと考える。

握り飯は食わせたが、どうにも痩せこけた子供。肉だ、肉を食わせなければ。



「ガ!オ前、肉、食エ!」

「・・・・・・」


魏延がそう言うと、子供はこくりと頷いた。ほんの少しだけ嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。

子供を右肩に乗せたまま、魏延は部屋を出ようと扉の前に立つ。すると子供は肩の上で固く身体を縮ませた。



「此処、我ノ国。敵、イナイ」

「・・・・・・・」


尚も警戒を解かない子供を見て、今更服や身体が薄汚れていることに気付く。

しかしそれは他の者の目から見ればの話で、元々森で育った湯浴み嫌いの魏延は特に気にならない。

先に湯浴みをさせるべきかと悩んだが、そうすると自分も一緒に入らなければならないだろうと思い、後でいい、と結論付けた。











あまり目立つのは得策ではないだろうと考え、魏延は部屋の壁に掛けられていた仮面を手に取った。

それは以前が市中の祭で見つけてきた子供用の小さな仮面で、そこにが装飾を加えて、魏延の仮面そっくりに仕上げてある。要するに彼女の悪ふざけだ。

子供に丁度良かろうと手渡すと、子供は存外にそれを見て喜んだ。自分の顔にあてがい、どう?と首を傾げる様は我が子のように可愛い。

子供の頭を軽く撫でながら外へ出ると、警戒するものの先ほどのように隠れようとはしなかった。仮面が功を奏しているのだろう。

仮面を付けた方がよほど目立つということに気付かない二人は廊下を歩いて厨房へと急いだ。






















その日馬岱は、いつものように執務から逃げた馬超を探して廊下を彷徨っていた。

こんなこともあろうかと馬超の愛馬は馬屋の人間に散歩に連れ出すよう指示してある。

馬がなければ馬超も逃げ出すことはできないだろう。そんな若干の余裕を持ちつつ途中で姜維の姿を見つけて、よっ、と肩を叩いた。



「姜維、うちの若知らないかい?ま〜た、逃げだしちゃってさぁ!」

「・・・え?ああ、なんか言いました?」

「え?なになに、どうしちゃったの?なに呆けてるのさ」

「い、いえ、馬岱殿、魏延殿に子がいること・・・ご存じでしたか?」

「へ?いやいや〜〜聞いたことないけど?」


魏延夫婦はそれはそれは仲睦まじいがまだ子は授かっていない、確か前に黄忠がそう愚痴をこぼしていたのを聞いたことがある。

二人の子が生まれるという事はあの爺にとっては孫を授かるのと同義なのだろう。ひたすら二人を急かしていたような気がする。




「あれ・・・見て下さい」

「うん?・・・・・へ?」


姜維が指差す先を見て、馬岱は間抜け声を出した。

二人がいる渡り廊下から見える庭の木の下で、魏延が肩に子供を乗せて一つの肉を二人で齧っているのだ。

あまり行儀が良いとは言えないが、子供は顔に魏延そっくりの仮面を付けており、一目で親子と分かる様子は見ていて微笑ましい。

だが廊下を通っている人達は微笑みながらも首を傾げている。誰もあの夫婦の間に子が授かったという話を聞いていないからだ。

と、いうよりが妊娠した様子はなかった。魏延のことだから他の女に孕ませたなんてことはないだろう。




「どう見ても親子ですよね」

「そうだねぇ。親子だねぇ」



首を傾げるしかない状況でむくむくと沸き上がるのは好奇心。

馬岱は探し人のことも忘れ、城の中へと走りだした。

















厨房でもらった肉を魏延が差し出すと、子供はすぐには口を開こうとしなかった。

魏延が首を傾げながらいつものように肉に齧りつき、妻にするように子供に差し出す。

すると今度は素直に口を開けて魏延が食べたすぐ傍に齧りついた。

魏延が食べて、子供が食べて、とそれを繰り返していく内にどんどん肉の塊は減っていく。

やがて満腹になったのだろう、子供が口を開かなくなったのを見計らい残りの肉を全てたいらげて満足気にゲップをすると子供も真似をして息を吐いたが声は出なかった。




「オ前、名ハ」

そう問うと、子供はフルフルと首を横に振った。

子の様子からして親はいないように感じる。ならば名がないのか、それとも言えぬだけか。

これからどうしようかと考えながらも満腹になった腹で感じるのは眠気だけ。

考えるのはあとでいいか、と子供の身体を肩から腹に乗せてごろんと寝転がる。




「我、寝ル。オ前モ寝ロ」



それだけ言って目を閉じた。大の字に寝転がった魏延の腹の上でもぞもぞと子供が動き、やがて魏延の真似をしたのか、子供も大の字になって動かなくなった。

魏延は子供が落ちないように、そっと身体に手を添えて今度こそ眠りに落ちた。周囲が大変な騒ぎになっていることも気付かずに。


















劉備は義兄弟を引き連れて廊下を走っていた。

それは君主にあるまじき行為で誰もが何事か、驚きながらも君主の為に道を開ける。

目的の場所に辿り着いた劉備はあんぐりと口を開けた。


「ななな、なんということだ!」

「これは・・・驚きましたな」

「おいおい、魏延のやつ水臭ェじゃねぇか!」



劉備がうろたえ、関羽が微笑み、張飛が怒る中で、次に現れたのは黄忠と趙雲だった。



「・・・馬岱殿の言うことが本当だったとは・・・・」

「なんじゃ、なんじゃ!!わしは知らんぞ!聞いておらんぞ!」


魏延と最も付き合いの長い黄忠は何故隠しておったのかと捲くし立てる。何か事情があったのでしょう、と趙雲がなだめるが、聞く耳を持たない。


「にしてもまさか殿まで知らなかったとは思わなかったなぁ」

魏延に子が、と言いふらしたのはもちろん馬岱だ。

もっとも馬岱は若い面々が知らないだけで、蜀の重鎮は皆知っているのだろうと聞き回っただけなのだが、結果として誰も知らずこのような状況になったわけだ。






「お、ガキが起きたぞ」


これだけ人が集まれば目も覚めるだろう。子供はガバッと身体を起こしてこちらを見ると、腹の上で魏延の身体を揺すった。

魏延が目を覚まして身体を起こすとその背に隠れて、ひょこり、と肩から顔出してこちらを見ている。

顔には魏延と揃いの仮面、誰がどう見ても微笑ましい親子の姿だ。



「こりゃぁあああ、魏延!!お主、なぜこんな愛でたいことを隠しておった!!」

「魏延!どうして私に教えてくれなかったのだ!」


声を上げる劉備と黄忠の姿に首を傾げる二人の親子に、周囲に笑顔が漏れる。


「ほれ、わしがおじいちゃんじゃぞ」

「ああ、祝い事の準備をしなければ!!」






劉備と黄忠をよそに今夜は宴会だ、と盛り上がる張飛やにこにこと親子を見つめている子供好きの趙雲、めでたいことだ、と髭を撫でる関羽に、いや、だから殿はいつ妊娠してたの?という馬岱の疑問は届かなかった。






















――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
連載当初から考えていた設定で、夫婦となった二人の間に小太郎が落ちてくる、というものでした。
単に魏延と小太郎を絡ませたかっただけですが(笑)
当然この後帰って来たさんは質問責めです。