魏延は息を呑んだ。

こんなことがあるはずがない。

狂おしいほど、焦がれた人。












再会













幸せな夢の後にはいつも残酷な現実がある。

魏延は重い瞼を開き、陽の光の眩しさに顔を顰めた。





ぎくり、と。

身体が震える。



己の身体に触れている、何かがあったから。

その何かを知覚した途端、それが何か分かってしまったから。








の両腕が、己の髪に触れている

の胸が、己の視界を塞いでいる。

の吐息が、己の首筋にかかっている。








これは、夢だろうか。

夢の続きを見ているのだろうか。






ペロリ、との頬を舐めてみる。

幼い頃、に教えてもらった、大好きの印。






ペロリ、ぺロリ、と。何度も何度も何度も。

こうしていると、が起きてくれて、およはうと、”チゥ”をくれる。

それがどんなに嬉しくて、どんなに幸せだったか。











どうしてだろう。

己はこんなにも歳を重ね、異形と成り果てたのに。

彼女は何一つ変わらない。その肌も髪も匂いも全てが記憶のまま止まっている。










夢、ならば、許されるだろうか。

この肌に触れることも、抱き続けた禁忌を形にすることも。

いっそのこと、己も成長しなければ良かった。

そうすれば、育った雄の欲望を、彼女に向けずに済んだのに。





そろり、と。

舌を頬から唇に滑らす。

幼い時分には知らなかった行為。

その小さな唇に、己の舌をそっと這わす。



それは甘美な蜜のように。

甘く柔らかく、少しだけのつもりが、もっともっと欲しくなる。






「コノママ・・・・」




いっそ夢ならば、このまま彼女を抱いて眠りの中に墜ちてしまえばどんなに幸せだろう。




目を覚まして欲しいと思ってる。

名前を呼んで抱きしめて”チゥ”をして欲しい。




目を覚まさないで欲しいと願ってる。

こんなにも醜く、血で穢れた己を知らないで欲しい。






こうしていると、笑いながら彼女が――――・・・・








「エン」







彼女が目を覚まして、







「おはよう、エン」






大好きの印をくれる。















触れた唇の温もりはとても夢とは思えなかった。