早いもので、子供がうちに来てから三日が経った。 大人の短い夏休みはあと四日で終わる。 これからのことをそろそろ真剣に考えなければならない。 例えそれが子供との別れを意味していても。 仮面一人分増えた洗濯物をのんびりと干しながら、小さく欠伸が出た。 エンはどうやら朝日と共に起きるのが習慣らしく、朝が超がつくほど速い。 夜は夜で子供と一緒に日が暮れたら寝てしまうものだから、すっかり生活習慣が健康的になっている。 「はぁ〜〜朝日が眩しいーーー」 こんな早い時間に洗濯物を干すことになろうとは誰が思っただろうか。 朝食も済ませてしまったし、今日はエンと何をして遊ぼうかと考え、ふとその本人がいないことに気づく。 「あれ?エーーーン?」 呼んでも返事はない。 かわりに聞こえてきたのは、ガタっという何かをひっくり返した音。 「エン!?」 急いで洗濯物を置いて、物音がした部屋に飛び込む。 音がしたのは最初にエンを見つけた仏間だった。 その仏壇の横に積まれていた段ボールがひっくり返り、そこにエンが半身を突っ込んでいる。 「なんでそうなんでもかんでも、頭を突っ込むかな・・・」 もしやそれは癖かなにかなのだろうかと思いつつ、エンの身体を段ボールから引き抜くと、その顔には見覚えのあるものがくっついていた。 「ちょっ、エン、それ・・・昔私が作った・・・・」 「、我、エン!」 「うん、知ってる、知ってるから、それ、返して・・・」 「否!」 エンが顔にくっつけていたのは、私が学生時代大嫌いな美術の授業で作ったそれはそれは妙な仮面だった。 今となってはどうしてそんなものを作ったのかすらわからない。 当時の私、何か人生迷ってることでもあったんだろうか。 オペラ座の怪人のような目元だけが隠れる仮面に赤と緑を使った隈どりのような模様が描いてあり、何故かその下には牙が生えている。 アクションゲームの影響でも受けたのだろうか、と思わせるその仮面をエンはいたく気に入ったようだった。 「エンにはそれちょっと大きいでしょ?だから返して?」 「否!」 「でも、ほらずり落ちちゃってるでしょ?」 「ウ”ウ”ァアア”」 当時の私が作った仮面は当然大人用の仮面をベースに使っている。 だから紐で頭に付けれるようにしてあるものの、子供のエンにはまだ大きいようだった。 それでもエンは嫌々と首を振る。 多分、顔が隠れる仮面はエンにとって、自分のコンプレックスを隠してくれるものだと思ったのだろう。 いくら自分の昔の恥だからといって、それで取り上げるのは大人げない。 「じゃあ、エン、それあげるから、首から下げておこうか」 「ア”?」 「エンは身体が大きいから、すぐに大きくなるよ。そしたら丁度良くなるから。ね?」 「我、大キク?」 「そう、だから今は首から下げておこうね」 「我、大キクナル!、護ル!」 「―――うん?そっか、ありがと」 子供を抱きしめて、ちょっと小腹が空いたね、っと居間にあった煎餅を二人で齧る。 エンは嬉しそうに何度も何度も仮面を触っては、被る真似をして遊んでいた。 それからまだお昼には早いからと、二人で縁側で少しだけ昼寝をしようとエンの身体を抱きしめて。 抱きしめて、エンの額にキスをして、眠って、そして目を覚ましたら。 子供の姿は何処にもなかった。 |