お風呂から上がって、じゃあご飯どうしようかと考えて、はたと気づいた。 すいません、私一人暮らし四年目ですけど、料理苦手なんです。 子供が喜んで食べそうなものなんて、何一つ作れないんですが・・・・・・。 白いご飯しかないってどういうことぉおおおおお 食べるというわけで、とりあえずお粥を作ってみました。 材料は卵、白米、味付けにめんつゆ少々。 それから冷凍のから揚げを引っ張り出してレンジでチン。 明日からは栄養も考えて、これじゃダメよね、と思いつつまぁ今はどうしようもない。 「エン、ご飯出来たよ」 支度している最中ずっと私の後ろについて回ってた子供を連れて、居間に座る。 座布団に座った私の膝の上にエンを乗せたのは、テーブルにお皿を置いた途端、お粥に手をそのまま突っ込もうとしたからだ。 野生という印象はどうやら間違っていなかったようで、エンには文化的と言うか現代的知識がまるでない。 この分じゃスプーンもお箸も使えないに違いないってことで、膝の上にイン。 熱いのでふーふーしながら、食べさせてあげることにしました。ちなみに人生初の経験ですよ。 「はい、エン、あーん」 「アーン」 エンが私の言葉の真似をする。 どうやらこの子は知っている語彙が圧倒的に少ないらしい。 そのせいか私の言葉を一生懸命覚えようとしている。 これは私も正しい言葉遣いをしなければ、と思う反面、子供相手に擬音語が多くなってしまうのも致し方ないわけで。 「はいごっくん」 「ゴックン」 「良く出来ました。エン、いい子ね」 「我、イイコ!」 まだまだぎこちないけれど、笑顔を見せてくれるようになった子供の髪をぐるぐると撫でまわす。 長かった前髪はお風呂に上がって髪をタオルで拭いた後、一つに縛らせてもらった。 エンは嫌がったけれど、そのおかげで顔がしっかりと見える。 あばたもえくぼ、可愛いと思えばなんでも可愛いもので、エンの額にちゅっ、と口付ける。 「エンは素直で可愛いね」 「我、カワイイ、チガウ」 「うん?エンは可愛いよ?」 「ミナ、我、バケモノ、イウ」 子供から吐かれた言葉は、私の想像を超えた言葉だった。 皆とは誰だろう。家族?友達?それとも世間? この子が近所の迷子なんて事態が軽いものじゃないと確信している今、慎重に言葉を紡ぐ。 「エン、うちに来る前何処にいたか、覚えてる?」 「我・・・森、イタ」 「森?家族は?」 「我・・・ヒトリ、森、クラス」 「え、ちょっ、ちょっと待って?」 一人で森に暮らす。まず日本では可能なことじゃない。 例えば南米、ジャングルに住む民族がいたとして、そこにエンが少し変わった容貌をしていて村八分にされていたとする。 そこまではいい。そこからが繋がらない。 「それで・・森にいて、そこからどうやってうちに来たの?」 「我、穴、ネタ。オキル、ココ、イタ」 「穴の中で寝てて・・・目が覚めたらここにいたってこと?」 「我、シラヌ場所、隠レル」 「知らない場所でびっくりしてそれで隠れてようと押し入れの中に入ったわけね」 押入れの中に顔を突っ込んだ経緯それは、分かる。けれどやはりエンが此処へ来たその瞬間が繋がらない。 目が覚めたら知らない場所だった。誰かに連れてこられた? 「エンがいた場所の名前分かるかな?」 「ヨウショウノ森」 「よう、しょう?」 しっかりと頷く子供に嘘じゃないことは明白。 もしかしたらとんでもないものを抱え込んでしまったんじゃないだろうか。 とりあえず警察・・・・・いや、それも待った方がいいかもしれない。 やっと少しずつ心を開いてくれたのに、大勢の知らない大人が次々に現れたら最初のように怯えるに決まっている。 一般的に見れば可愛いとは言えない容貌、心無い言葉を吐く大人もいるだろう。 「あのね、エンの家が見つかるまで、私とここで一緒に暮らさない?」 「我、、イッショ?」 「そう、いっしょ」 「我、、イッショ!!」 膝に乗っていた子供が、くるりと身体を反転して私の首にその細い腕を巻きつけた。 この子は身体が大きい割に、腕や足が細い。きっと満足に食事も出来ていなかったのだろう。 せめてこの子が此処にいる間は、この子にお腹いっぱい食べさせてあげよう。 「じゃあ、ほら、全部食べたら、一緒に寝よう、ね!」 「我、タベル!、イッショ!!」 「うん、一緒だよ」 けれどこの子供との出会いが、後にとんでもないことになることを、今はまだ気付かずにいた。 |