がまず最初にしたことは子供をお風呂にいれることだった。





















触れ合う














抱きしめて、名前を教えてもらって、子供を抱きしめ続けて。

ようやく子供が落ち着いたところで、とりあえずお風呂に入れようと子供を抱いたまま立ち上がった。




「!!」


思った通り、驚いて縋りついてくる子供に笑いながら、ぽんぽんと背中を優しく叩く。


「とりあえず、お風呂入ろうか。一緒に、ね?」

「オ・・フロ・・?・」

「お湯で身体綺麗にしよ?そしたらご飯食べようね」

「我・・・腹ヘッタ・・・・」

「そう、エンはお腹が空いたの。じゃあいい子にしててね。すぐに終わるから」

「我・・・イイコ?」

「そう、エンはいい子ね」




いい子と言われ、はにかんで私の肩に顔を押しつける仕草は子供そのもの。

この子は一体どんな人生を歩んできたのだろうと思うと胸が痛くなる。

近所から逃げてきたという訳じゃないだろう。そもそも日本人じゃない。

言葉はかろうじて通じるけれど、容姿だけ見れば南米辺りの人間かと思う。

例え警察に行って、親が見つかったとしても果たして受け渡してもいいのか悩むところだ。





「じゃあ、服脱ごうね」

「?」



服を脱ぐ、と言われて首を傾げるエン。

どうやらようやく自分の格好が変わっていることに気づいたようだ。

子供には大きい私のパジャマのボタンを一つずつ外してやると、それを物珍しそうに見つめる。

上着を脱がすだけだから、あっという間に終わって、私も自分の服を脱ぎ始める。

二人で裸になって、浴室の扉を開けるエンはおそるおそるという感じで浴室を覗いた。

この子はお風呂も珍しいのだろうか・・・・

子供の背を押して、浴室の扉を閉める。ガラガラと大きな音がしたことに、子供の身体が跳ね上がる。




「ごめん、びっくりした?でも私が一緒だから怖くないでしょ?」

イッショ?」

「そう、一緒」



子供の頭を撫でながら、ゆるゆるとシャワーの蛇口を捻る。

驚かせないように、お湯を少しずつ出して、まず自分の身体にお湯をかけて見せた。




「こうやってね、お湯で身体を綺麗にしようね」

「我、水、キライ」

「大丈夫。ゆっくりやるからね?」



なんとなく野性味を感じる子供だとは思ってただけど、水が嫌いとはまるで野良猫のようだ。

シャワーで浴びせると拒否反応を示しそうだと思い、一旦桶に水を溜めてから、それを少しずつ体にかけていく。

強張る子供の身体に、石鹸で泡立てたスポンジをそっと当てる。

実はこれ美肌用のヘチマスポンジなのだけど、垢だらけの身体にはちょうどいいだろう。




「こうやってね、あわあわしてね、綺麗にしようね」

「アワアワ?」

「あわあわ」



こてり、と首を傾げる子供。

ちょ、かわいいじゃないか!

長い髪で隠れている為、口元しか見えない。けど可愛い。

もっと全部見たいなぁと思って、前髪をあげようと顔に手を伸ばすと、バッと子供が身を引く。





「ガァ!!」



威嚇するように唸る姿は野生の獣そのもの。

頭を両腕で隠し、いやいや、と首を振る。

そんなに顔を見られるのが嫌なのだろうか。

コンプレックスは誰にだってある。けれど、この子はその為に辛い思いをしてきたのかもしれない。





「エン、私に顔を見せるの、嫌?」


静かに問うと、子供はますます激しく首を振った。

その姿は痛々しくて。


「でもね私、エンが寝てる時にもう顔見ちゃった」

「!!」

「だから隠さなくてもいいんだよ。ほらおいで」




子供の手を引く。

抱きしめる。

肌が擦れ合う。

髪をかき上げる。

子供と目が合う。

怯える子供の顔に、キスをする。

額、眉間、頬、いたる所に、キスをする。







「エンは私のこと、嫌い?」

「・・・・・」

「私はエンのこと、好きだよ。だからエンにも私のこと好きになって欲しいな」




返事はなかった。

けれど今はそれでいい。





ぐぅっ、その代わりに聞こえた腹の虫を収める為に。

さぁ、まずは髪を洗おうか。