、現在社会人四年目。





不思議な光景を見てしまいました。















拾った












拾った。

その表現がまさにふさわしい。

明日から一週間お盆休みだーとか、浮かれて食糧買いこんで、いつも通り帰宅して。

祖父から受け継いだ平屋の一戸建ての今時珍しい木造一軒家の玄関を開けたら。





子供が、





子供が仏壇の部屋の押し入れの中に、頭突っ込んでたんです。








「は・・・・・はいぃいいい?」





不法侵入とか部屋がちょっと荒されてるとかそういうことよりも、まず、身長一メートルぐらいの子供が押入れの中の積まれた布団の間に頭挟んで微動だにしないことにパニくる。

これはまさか子供が変質者に追いかけられて、その辺の家に助けを求めて飛び込んだら留守宅で、怖くて押し入れの中に頭突っ込んじゃったとかそういうのですか。

どんな事情があろうともきっと子供に罪は無いに違いない。例え部屋が泥だらけでしっちゃかめっちゃかでも。



「ね、君、大丈夫?どうしたの?」




おそるおそる子供に近づく。

すると部屋の畳が泥で汚れているのは子供自体の汚れのせいだとわかった。

そもそもこの子・・・・・ほとんど裸同然だ。

上半身は何も着ていなくて、下半身は簡単に蓑のようなものを巻いただけ。下着はいていない。

布団に顔を突っ込んで、おしりを突き出している格好だから、実はかわいいモノがちらりと見えてしまっている。

いや、別に子供だから見えててもどうってことはないんだけど・・・・。

もしかしてどこかで虐待でも受けていた子が逃げ出して来たんだろうか・・・・。



ゆっくりと近づく。小さな鼓動と息を吐く音が聞こえてきた。

寝てる・・・?




子供身体を布団から引き抜いて、そぉっと抱き寄せる。

その子の顔を見て、ギクリとした。




身体だけじゃなくて、顔も茶色く汚れている。

髪はぼさぼさで前髪が顎のラインにまで伸びていて、顔がよく見えない。

子供を支えている手とは反対の手を使って前髪をかきあげると、そこには異様なほど骨の出っ張った額があった。

ほら、あれだ。某漫画のサイヤ人みたいな。眉毛なくてその部分が盛り上がっていて額がやけに大きく見える。

病気ではないだろう。骨格の形が少し変わっているだけだ。けれどすこし異様に見える。

だからこの子はこんなに髪を伸ばして、顔を隠しているのだろうか。

だからこの子は布団の中に顔を突っ込んで、顔を隠していたのだろうか。





子供をそっと畳の上に寝かせて、浴室からタオルを何枚か持ってくる。

固く絞ったタオルで身体をそっと拭いていくと、あちこちに生傷のようなものがあった。

もう治っているもの、少し赤味がさしてまだ痛そうなもの。

尋常じゃない雰囲気を感じつつ、警察に連絡しようか考える。

子供はまだ目を覚ます気配はない。

子供から話を聞いてからの方がいいだろうと判断し、とにかく汚れた身体を拭き続けた。











子供の身体をしっかりと綺麗にして、髪も出来るだけ拭いた。

一度お風呂に入ってもらわなければ、この土臭い匂いは取れそうにないけれどそれでも最初よりはマシになったと思う。

腰布を外すだけで裸になった子供の身体に自分のパジャマの上着を着せる。

子供用の下着も後で買って来なくちゃと腰を上げた瞬間、ガタっと大きな音がした。





「ァア"ア"ア"ア"」




それはまるで獣の叫び。

子供が起きて、そして私を見て怯えているのだと気付く。

慌てて抱きしめようとすると、私の身体をすり抜け、押入れの中に入ろうとする。





「だ、大丈夫!大丈夫だから!何も怖くないから!」

「ァア"ア"、我、触レルナ!!」

「大丈夫!私は貴方を傷つけない!だからっ!」



子供に必死で手を伸ばす。

虐待?そんな生温い。この怯え方は尋常じゃない。それに子供のしゃべり方がカタコトなのはどうして?



「触フレルナ!!」

「痛ッ!!」


伸ばした腕に子供が噛みついた。鋭い歯が私の腕にギリギリと食い込んでいく。

けれどその子供の身体は私以上に震えていた。

泣きながら、泣きじゃくりながら、私に噛みつく。一体何がそんなに怖いというのか。




「私の名前・・・・っていうの。貴方の・・・名前は?」



痛みを堪えて、子供に問う。

子供は長い髪の隙間から私を凝視する。まるで敵を見るように。





「怖くないよ、私は貴方に何もしない。だから・・・、名前教えて?」


脅えさせないように、驚かせないように、出来るだけ笑いながら、痛みを堪えて。

子供の力が少し弛み、ゆっくりと私の腕から歯が離れていく。

すかさず私は子供を両腕で抱き締めた。

子供の身体が、震える。





「大丈夫だから。貴方の名前は?」


「我、”エン”」






子供の小さな声は、確かに私の耳に響いた。