ノックをして邪鬼の部屋に入った影慶は一瞬、足を止めた。

いつもこの時間にいるはずのない女が、妙な格好をしてベットに座り込んでいたからだ。







「おい、何してるんだ?」













賭け













邪鬼の恋人であるが、ベットの上であぐらをかいて、自分の足の裏をじっと見ている。

そんなおかしな場面に遭遇した影慶は、ついにこの女ヨガでも始めたのだろうか・・・・そんな見当違いな事を考えていた。

足の裏を顔に近付けている光景は、足の匂いを嗅いでいるようにも見えなくはない。




「それとも頭がイカれたか?」

「そんなわけあるか、馬鹿が」





影慶の言葉に即座に反応したは、手元にあった枕を投げつけた。

まるで高校球児並の破壊力で空を飛んだ枕は、影慶の顔すれすれを通り過ぎた。

けどそれでもは自分の足元から視線を外そうとはしない。






「足がどうかしたか」

「棘がささったらしい」

「とげ?」





影慶は枕を拾ってベットの上に置くと、の頭の上から足の裏を覗き見た。

は邪鬼の恋人であるのだから、ある程度の距離は保っておく必要がある。

常日頃そう考えている影慶は、の足には触れずに棘を探した。







「どこが痛いんだ?」

「ここだ」






ショートパンツにキャミソールという無防備な格好のはまるで恥じらいを見せる様子もなく足の裏をずいっと影慶の顔に向かって伸ばした。

影慶が視線を少しずらせば下着や胸のふくらみまで見えてしまいそうな距離だ。




「分かったから足を下げろ!」





顔を反らして影慶が怒鳴るとが足を下ろし、あぐらだった足を組み直した。

邪鬼がいる時にはに対し敬語で話す影慶は、二人だけの時には言葉遣いが元に戻る。

これは決していい意味ではなく、単に互いが互いを気に入らないというだけであったが、その方が二人とも気楽というのも事実だった。

嫌いではないのだ。ただ気に入らない。結局二人の関係は邪鬼が間に居てこその関係だ。

無論、はまだ完全に邪鬼に気を許したつもりはないようだから、影慶との仲なら尚更のこと。

決して物を頼むような関係ではない。








「影慶、棘を抜け」

「ちっ、痛いのか?」

「痛い」






そのが命令口調であるとはいえ、物を頼んだのだから相当痛むのかと影慶は白い足を見た。

決して綺麗な足ではない。見れば刀傷と分かる朱線が模様のようにあちらこちらに広がっている。

それでもやはり女の足であることを主張するように、その肌は滑らかに光っている。







「見せろ」








ベットの脇に立って、から棘抜きを受け取る。

先ほどのように足を伸ばしてきたの足を左手で支えた。













































羅刹は邪鬼に命じられて、影慶を探していた。

邪鬼の忘れ物を取りに邪鬼の部屋へ向かった影慶が帰ってこないのだ。

見つからないのだろうか、と首を捻りながらいつもは歩かない廊下を歩く。

やがて大きな扉が見つかり、羅刹は部屋の主から許可は得ているのだからとノックもしないでドアノブに手を掛けた。










『や・・・・いたい・・・・』


『我慢しろ』


『できな・・・・・・』










(ぬぁああああああああああ!?)







聞こえたのは間違いなく、影慶との声だ。

いつも強気な態度を崩さないはずのの声は小さく、心なしか影慶の声も焦っているように聞こえる。





(それにな、なんだ!?あの会話は・・・・・・)





まさかとんでもない場面に遭遇しているのではないのだろうか。

羅刹は迷いながらドアに耳をくっつけた。









『深いな・・・・・もう抜くぞ?』


『ん・・・・いいから早く抜け』







(は、はやまったか、影慶ーーーーー!!!!)








羅刹の頭の中では完全にある構図が出来上がっていた。

確かには美人だし、身体に傷はあるがそれが更に彼女の色気を増している。

あの強気な女を欲しがる男は星の数ほどいるだろう、なんせあの邪鬼が落とされた女なのだ。

しかしまさか影慶がそんな・・・いやアイツとて男だ、いやそれよりもこのままでは・・・・

いやいやいやいやいやいやいやいや、まてまてまてまて







『おい、もっと丁寧にやれ!』

『減らず口を叩くな、文句があるならもう一度いれてやろうか?』















「はやまるな影慶ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」














羅刹は力の限りドアに体当たりをした。

細工が施された大きな扉はギリっと金具が折れる鈍い音がして、ドアごと床に倒れこむ。







「えええ、えいえいえいえいけ、えいけい!!!!!」









舌を噛みまくりながら、倒れた身体を起こして影慶とを探す。

そこにはあられもない姿でベットの上に座り込んだとその足首を掴んだ影慶の姿があった。








「み、見損なったぞ、影慶!!!」

「「は??」」

「まさかこのような!」

「おい」

「邪鬼様になんと報告をすればいい!!??」

「おい、羅刹」

「どうすればいいのだ、俺は!!!!まさか邪鬼様を謀るなどと―――」

「おい!!!!」

「ぬぅああああああ!!!!」










錯乱状態でかけていく羅刹を二人はしばし呆然と見送った。

吹き抜けていく風が、まるで二人の気持ちを表すかのように冷たい。






「おい、影慶・・・・」

「・・・なんだ」

「いいのか?」






が羅刹が壊したドアの方向を指さして言う。

その言葉に我に返った影慶は慌てて、羅刹の後を追った。







後に残されたは、今夜の帝王の不機嫌さ思いため息をつくのだった。

















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賭けシリーズ羅刹VERです。でも影慶ばっかりだ。