君がいてくれる奇跡に、 君が選んでくれた現実に、 二人の未来を祝福してくれた仲間達に、 全てに感謝を。 そして歴史の針は刻まれる新選組は近藤の斬首、そして五稜郭での土方の死、戊辰戦争終結にてその歴史を閉じた。 思えばなんと凄絶で、壮大な生き様だったことだろう。 己の人生は確かにその歴史の中に在った。 そして出会った。 全てを賭して護りたいと願う存在に。 山崎とは、鳥羽、伏見の戦いの折に京を離れ、陸奥の山奥に隠れるように暮らしていた。 それでも新選組の顛末は耳に届いた。それはの胸を痛ませるだけのものだと分かっていた。 けれど話さないわけにはいかない。 山崎は知り得た情報を全てに話すと、予想通りははらはらと涙を流した。 「生きては、くれなかったんですね」 「己の信念を貫き通した結果だ。誰一人悔いてはいないだろう。、無論、副長も」 彼女の心中を察しながら、濡れた頬に、瞼に口付ける。 舌で涙を舐めとり、そのまま首筋に舌を滑らす。 山崎の行動の意味を読み取り、の身体がぴくん、と震えた。 「山崎さん・・・」 「こんな時に卑怯だと思う。が、こんな時だからこそ」 「私も・・・・私も・・・・」 「・・・・」 山崎は戊辰戦争の決着が着くまでは、とに触れずにいた。 そしてそれは口約したものではないけれど、も了解していた。 互いに戦っている仲間達に、死んでいった者たちに、罪悪感があったからかもしれない。 二人だけ幸せになど、なれるはずもないのだから。 だがは山崎の袖に縋りついて、先を促した。 人は悲しみにくれた時、温もりを欲し安堵を得る。 房事はただ子孫を残すだけの行為ではないのだ。人は本能でそれを知っている。 山崎は艶やかな黒髪から朱の簪を抜き取った。 もう男装する必要のないの髪を飾っていた、真新しい簪。無論、山崎が贈ったものだ。 梳かれた髪から香る匂いは、かすかに花の香りがする。 「君を護る、この魂に誓って」 「お傍にいます、ずっと・・・・!」 涙は止まらない。けれどそれは悲しみだけのものじゃない。 山崎は嗚咽を漏らすの胸元を開き、その膨らみに唇を寄せた。 何度夢想しただろう、その柔らかな肌は山崎の肌にぴたりと吸いつく。 怖がらせぬように優しく指を鎮めると、早くなった鼓動が山崎の指に伝わる。 「山崎さん・・・・灯りを・・・・」 「消す、か?しかし俺は夜目が利く。あまり意味はない」 「うっ・・・・でも・・・・でも・・・・・」 「それにの全てを見たい。俺の全てを見せたい。見てはくれないのか?」 そう乞えば、みるみるうちにの頬が朱色に染まる。それは春の桜よりも、夜の梅を思わせるほど艶めいて。 「山崎さん、意地悪です!」 そう言った彼女はたまらなく可愛らしく、それが己の腕の中にあるのだと思えば下肢の熱は煽られる。 山崎は口元を少し上げると、の胸の飾りに吸いつき、空いた両手での帯を器用に解いた。 「・・・・ぁ・・・・・」 肌蹴た着物に、戸惑いの声が漏れる。 襦袢だけになって、恥ずかしいのだろう、小さな身体を丸くしてそれでも胸の膨らみは山崎の手の中だ。 少し力を入れるだけで形を変えるそれを口に含みながら、あやす様にの背を撫でる。 「山崎さん」 「名前、呼んでくれないか」 「す、蒸さん・・・・」 まだ慣れないのか、名前は本当にたまにしか呼んでくれない。 いまだ名前を呼ぶだけで真っ赤になってくれるその初々しさを愛らしいと思う。 この細い身体を抱きしめる度に、愛おしいと思う。 止まるはずもない。 の背を支えながら、ゆっくりと布団の上に押し倒す。 は山崎の肩に縋りつくようにその顔を埋めた。 が眠りについた後、山崎は静かに庭の景色を眺めていた。 覚悟していた近藤と土方の死、恐らく山南と藤堂も運命を同じくしたに違いない。 斉藤は会津で果てたと聞いた。原田も上野戦争の怪我が元で死に、沖田は病死という彼らに似つかわしくない最期を遂げた。 土方の死に様を伝えに来たのは五稜郭まで土方に就き従った島田だった。 永倉はどうやら松前藩に帰順しているらしい。彼も自分たちも、もう歴史の表に立つことはないだろう。 何故、己は生かされたのか、その意味を問う。 託されたのだ、隊士達の信念を、歴史を、その誇りと魂を。 ならば残そう、そして護ろう、誠の旗を、と二人で。 静かに眠るに口付けを落とし、山崎は文机に向かい筆を取る。 すると、誰かの声が聞こえた気がして山崎は振り返った。 この家には二人以外誰もいない。 けれど確かに、山崎の耳には笑い合う仲間達の声が、聞こえた気がした。 昭和の時代を過ぎた頃、日野にて新選組の生き残りの書いた日記らしき書物が見つかる。 そこには激動の時代を生き抜いた新選組の生き様と、生涯妻と連れ添った男の人生が書かれていた。 だがそれは同じく新選組の永倉新八の残した新選組顛末記と異なる部分が多く見られ (主に鬼の存在について書かれた部分である) それは政府の手によって処分され、表に出ることはなかった。 |