風魔の膝の上に置かれた手が震えていた。 それが風魔は気に入らなかった。 氏政に手拭いごとを任された風魔はしばしそのままを見つめていた。 も動かない。下を向き、ただ何かに耐えるようにじっとしている。 膝の上の手の温もりだけが今の二人の均衡を保っている。 風魔はそれを壊すかのように、乱暴にの手を引くとその腕を手拭いで拭いた。 「・・・・・っ・・!」 の息が震える。 寒いのか、それとも痛いのか、そもそも優しろと言われても風魔にはそれが分からない。 拭き終わった右手を開放し、構わず左手も出せと身振りで要求する。 だが女は動かない。 「・・・・・・・・・」 業を煮やした風魔はの腰を左手で引き寄せ、右手で逃れようとするを押さえつけた。 「や・・・・やめっ・・・!!」 「・・・・・・・・・」 当然のようには手足をばたつかせ抵抗する。 風魔もムキになりを押さえつけた。 腕を掴んでいる手に少しでも力を入れればこの女の腕は簡単に折れるだろう。 それをしないのは、氏政の命令があるからだ。 氏政の命令さえ無ければ、 「風魔!!!」 「きゃっ!」 指に力を込めようとした瞬間、氏政の声がしてその手を離した。 その反動で小さな悲鳴と共にの身体がばしゃん、と大きな音を立てて桶の中に落ちる。 「・・・・・・・・!」 風魔は咄嗟に手を伸ばした。 だがあまりに短い間合いで意味は無い。 に引きずられるように風魔もまた桶の中に落ちた。 「・・あ、あの・・・ごめんなさい・・・・・」 「ふぉっふぉっふぉっ!!何しとるか、風魔!水も滴るなんとらやじゃの」 「・・・・・・・・・」 誰のせいだ、と風魔は心の中で悪態をついた。 まだ朝方の風は冷たく、水浴び用の桶の中で二人尻餅をついている様はあまりに滑稽だ。 付き合ってられるか。 風魔は瞬間、風を纏い姿を消した。 「こりゃ、風魔ーーーー!!!!」 屋根の上に飛び乗った。下に見える主の叫び声が聞こえる。 はまだ桶の中にいた。自分と同様びしょ濡れだ。 愛用の篭手から水が滴り落ちる。早く手入れしなければ錆がつくかもしれない。 篭手を外し濡れた手をじっと見る。 何故、あの時手を伸ばしたのか。 音にならないその問いに、答える者はいなかった。 |