月が映える漆黒の闇夜に浮かぶ影は三つ。

それは目的地に着くと、二つに分かれた。

二つの影は城へと向かい、もう一つの影は山へと消えた。



















「なんでこんなことに・・・・」



一つの影、正確には影が重なり合った二人の人間なのだが、その一つが盛大にため息をついた。

軍神秘蔵の温泉に行ってこい、と義理の祖父である氏政に言われ半ば強制的に連れてこられた上杉の領地。

案内にかすがという金髪美人の上杉の忍と佐助と四人で此処まで来たのだ。

ならば当然、かすがと、佐助と小太郎で男女に別れて温泉に入るのだと思っていた。

それなのに。





「着いたぞ、此処だ。じゃあ私は城に戻るからな」

「え!?かすがさん行っちゃうんですか!?」

「当たり前だ!一刻も早く謙信様の元へ戻らなければ!!」

ぁあ!!と悩殺ポーズで脳みそだけどこかへ行ってしまうかすが。

やっぱりこの人もちょっとアレな人なのだろうかと佐助を見ると、彼もまたどこか遠い目をしている。



「ぇ・・・あの、佐助さんは?」

「俺様はもちろんちゃんと一緒に・・・・わ!!」

「馬鹿か、貴様は!!」


多分温泉に行く、と言おうとしたのだろう。だがそれは二本のクナイに遮られる。

ん?二本?



「夫婦水入らずだろうが!遠慮しろ!ぁあ、私も謙信様と温泉に・・・っ!」

「・・・・・・・」(邪魔だ、去れ、むしろ消えろ)


かすがのとんでもない威圧感。それに何故か便乗している小太郎。

小太郎の場合は私と二人きりになりたいというよりは、単に佐助が嫌いっぽい。



「ちょっと!!じゃあ俺様なんの為に来たわけ!?」

「知るか!貴様が勝手について来たんだろうが!私は行く!!!」

「あっ、はい!?」


突然名前を呼ばれて驚くと、少しだけかすがが表情を和らげた。


「大変な奴を選んだが、まぁ、間違いじゃないだろう。何かあったら相談しろ。じゃあな」

「あ、ありがとうございます!」



礼の言葉は果たして彼女に届いただろうか。

あっという間に姿を消してしまった彼女の後を追って、佐助もじゃーね、と消えてしまう。

そして残されたのは小太郎とだけ。



その小太郎はしばらく腕を組み何かを探るように静かに立っていた。

やがて満足したのだろうか。がしゃり、と大きな音を立てて小太郎の背負っていた二対の刀が岩の傍に置かれる。



「こ、小太郎・・?」


何しているの、と聞くのは愚問。

目の前にはもくもくと湯気を昇らせる天然の温泉が月灯りに照らされて湯が光の波を作っている。

兜と鎧を脱ぎ捨て、あっという間に下帯一枚になりこちらへ振り返った。




「・・・・・・・・」(脱げ)




短い言葉だけならなんとか唇の動きを読めるようになった。

だから、分かる。分かるけど、分かりたくないのが本音。

拒絶の意味も含めて、曖昧に首を傾げた瞬間、身体が宙に浮いた。

そしてあっという間に温泉の湯気の上へ。




「・・・・・・・・」(落とす)

「脱ぐ!脱ぐから落とさないでよ!!」




こいつならほんとにやる。絶対やる。

慌ててそういうと、無表情のまま地面に下ろされる。

いや、表情には出ないけれど絶対腹の中では笑ってる。



仕方なくノロノロと着なれない着物を脱ぐ。

本当は脱ぐとまだ一人できちんと着れないから、脱ぎたくないけれど仕方がない。

襦袢一枚になって、さてどうしようかと思っていると、いつの間にか後ろに立っていた風魔に背中から抱きつかれた。



「え!?ちょっ、」

「・・・・・・・・」(遅い)




それだけ言うと、さっと襦袢を剥ぎ取られてしまう。

慌てて両腕で身体を隠そうとすると、またもや身体が宙に浮き、瞬き一つの間に湯の中へ。



「わっ!び、びっくりするでしょ!!」

「・・・・・・・・」(黙れ)

「てか、小太郎、いつの間に全部脱いだの・・・・・」



ごにょごにょと声が小さくなってしまったのは、小太郎がいつの間にか下帯を取っていたから。

湯の中で横抱きに抱えられ小太郎の膝の上に乗った状況では、その、触れている。

裸なのは私も同じなのだけれど、二回り以上身体の大きさが違う小太郎に何もかも包まれてしまう。

こうして、熱に浮かされた閨の中ではなく、落ち着いて小太郎の身体を見るのは実は初めてかもしれない。




「傷、あるね」




小太郎の胸板にはいくつもの傷があった。どうやってついたのか想像すらできない。

その傷の一つに、唇を寄せてちろりと舌を舐める。

こうして奉仕されることを、意外にも小太郎は喜ぶ。

予想通り気にいったのか、次々に傷を舐める私の行動を目を細めて見つめている。

嫌ならすぐにでも、行動で表す男だ。

やがて焦れたのか、小太郎が私の心の臓のに吸いつき、紅い痕をつける。


それが、合図。



















こんな調子では結構早く氏政の願いは叶いそうだと、湯気の中でぼんやりと思った。