「わしは孫が欲しい!風魔、温泉にでも行ってくるのじゃ!」



突然の氏政の孫が欲しい、そして何故か温泉発言。

そのせいで三人の忍と共に”軍神秘蔵の温泉”に向かうことになったは風魔の腕の中で脳みそをがくがく揺らされて、グロッキー状態だった。

当然だ。風魔のに対する無体とも言える扱いに慣れたものの、一晩かけての空中散歩など今まで体験したこともない。

かすがと佐助は常識的には考えられない大きな凧に乗り、優雅に風の流れにのっている。

いつだったかアイドル五人組が巨大凧に乗って空を飛ぶのに挑戦!なんてテレビでやってたなぁと思いながら、やはりの脳は揺れている。

相変わらずの丸太担ぎで木と木の間を飛び移る風魔には、愛情の一欠片も見えはしない。








お祖父ちゃん、ごめんなさい、やっぱり私この人と添い遂げるのは無理そう・・・


もうそろそろ、吐きそうだ。

そしたらお前の兜の中にぶちまけてやる、そう妙齢の女性らしからぬことを考えていた時、急に身体の浮遊感が止まった。












「なになに?休憩かい、風魔?」

「そうだな・・・・じゃないとが辛そうだ」




わかってるなら、さっさと止めて下さいよ、かすがさん。





悲しいことにそのツッコミは声になって発せられることはなかった。

代わりに湧き上がる嘔吐感。

風魔の腕から離れると、地面に腰が落ちた。









「おい、大丈夫か?」

「ちょっと・・・・吐きそうです」

ちゃん、これ呑みな」





佐助が差し出してくれた竹筒の中の水に口をつける。

嘔吐感が少しだけ和らいで、大きく息を吐いた。

甲斐甲斐しく面倒を見てくれる佐助とかすがの横で、風魔は悠然と腕組をして月を眺めている。






「おいおい、風魔。お前さんもうちょっと担ぎ方とか考えたら?」

「それは出発する前に言ってほしかったです、佐助さん」

「すまない、。あいつがさも当然のようにお前を担ぐからあれで平気なのかと」

「小太郎はね、私のこと中身の詰まってない米俵くらいにしか思っていないんですよ」

(よく、分かってる)

「あ、今、よく分かってるじゃないか。当然だ。お前なんか米俵にも及ばない、とか思ったでしょう小太郎!!」

(ふん)

「あーもー、まず思いやりとか人情とかそういうことを叩きこまなきゃダメですね!!」

(無駄なことを)





すっと風魔が姿を消し、その姿が月の影に映った。







「あ、逃げた!」

「お前・・・・あいつの言っていることがよく分かるな」

「小太郎はね、声にも表情にも出ない代わりに雰囲気に出るんです。あ、今、馬鹿にした、みたいな感じで」

「ああ、あるよなぁ、風魔のやつそういうとこ。いつも人を見下した感じの雰囲気っての?」

「ですよね!さすが佐助さん分かってる!!」

「まぁね。だからさ、あんなやつ放っておいて、俺とかすがとの三人で混浴〜〜〜なぁあんて・・・・・うわっと!!」





佐助がの手を握った瞬間、足元にクナイが数本勢いよく上から降ってきた。

誰のものかなど、問う必要もない。






「風魔ぁ!!俺様はともかくちゃんに当たったらどうすんだよ!?」

(ふん・・・・知るか)

「あ、今、俺様も風魔の思ったこと分かった。こんにゃろう、知ったこっちゃないってか!!!」



佐助が風魔の元へ文字通り飛んでいく。

かすがはが巻き込まれぬようにその身体を抱いて、少し離れたところに腰を下ろした。










「仲が良いんだな・・・・」

「?  誰がです?」

「お前と風魔だ。でなければ、嫉妬などしないだろう」

「嫉妬!?小太郎がですか?あれは多分・・・佐助さんと馬が合わないだけじゃないかと・・・」

「ああ・・・・私も謙信様に嫉妬されてみたい・・・・・」

「全然、聞いてませんね、人の話・・・・・」











本来ならば縁のないはずの刀の鍔迫り合う音や手裏剣の舞う光景を見つめながら、

越後って小田原から徒歩(?)で行けるものなのかと、は現実逃避したくなる自分を必死で思い留めた。