ああ、まったくやになっちゃうね。

これってさ、もしかして当て馬ってやつじゃないの、俺様としたことがさ。

知ってるよ!知ってるって!あの、崖の上の夫婦のことだろ?

俺様さぁ・・・ちょっと、気になってたんだよねぇ・・・・あの子。

あんな男よりもさ、俺の方がいい男だと思わない?

ねぇ、かすが・・・・・・って・・・・・居ねえし・・・・・

あ〜〜あ〜〜俺様って、女運悪いのかな・・・・・

にしてもかすがの奴何しに来たんだ?


















おー、知ってる、知ってる。

あの、噂の風魔がつれてる娘だろ?

驚いたよなぁ・・・・俺さ、栄光門の警備担当になってもう長いけどさ、

一度だって、あの忍が表情変えたところ見たことないぜ?

それがさ、あの娘・・・ああ、様っていうんだって?

あの娘がさ、なんだか栄光門の上に向かって怒鳴っててさ、何かと思ったら上に風魔がいるわけさ。

なんだっけなぁ・・・・・、あの娘がせっかく作った晩飯食わずに懐からお握り出してそれ食ったって、怒ってるんだよ。

そりゃ怒るよなぁ。俺だったら殴ってるね。そんな男!

それでもまぁ無反応だよなぁとか思ってたらさ、笑ったんだよ。ニヤって感じで風魔が。

それでさ、思わず俺さ、口をあんぐり開けてあっけにとられてたらさ、あの娘もさ俺と同じ表情してたんだよ。

ありゃあ笑っちまったね!悪いと思ったけど止まんなくてさ。

でもそうしたらさ、その娘がみるみる内に真っ赤になっちゃって、そりゃ・・・なんていうか・・・・・

可愛かったんだよ・・・・・・・・・

























様のことでございますか?

ええ、もちろん知っておりますよ。

あの子は本当に良い娘で。氏政様が養子に迎える準備をしていることを知ったら、まぁ慌てなさって。

養子なんてとんでもない!働きたいから女中の仕事をさせてくれ、なんて私のところへ飛びこんできたんですよ。

それから氏政様となにやら言い合いになりましてねぇ・・・・

結局、最後は様が折れて・・・・、氏政様のお孫さまになるということで決着がついたんでございます。

ああ、同時に風魔殿との婚姻も決まりまして、めでたく風魔殿も北条の一員になることにが決まりました。

やっぱりね、平和が一番でございますよ。

様には頑張って良い御子をたくさん産んでもらわなければ。

さぁ、その為にも美味しいご飯を炊かなくては!皆さん、仕事に戻りますよ!!




















おうおう、生きていてこんなにうれしいと思ったことはないわい!

一時はどうなるものかと思ったんじゃが・・・・良かったのぅ・・・・

心を通わせるということが、どれほど難しいか・・・・

だがそれを見事はやってのけた!さすがわしの孫娘じゃ!

うはっはっはっはっ・・・・はぁ、ごふっ、ごふっ、

お、おお〜〜い、誰か水を持てぃ!!!


・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・おお、













「氏政様、お水お持ちしました」






氏政は陶器に入った水を持ってきたの手から一気に水を飲み干した。

喉にすぅっと流れ込んでくる水の冷たさに、ふぅっと息を漏らす。

大丈夫ですか?と笑いかけてくるの手を握る。







「のぅ、。お祖父ちゃんと呼べと言うたじゃろ」


「ご、ごめんなさい。慌ててたから忘れてました。」

「次からはちゃんと呼ぶんじゃぞ。これ、風魔!風魔はおるか!!!」





氏政が声をあげると、すっと音もなく風魔が姿を現した。

何事かとこちらを見ている風魔とを見つめ、氏政はにやりと笑う。





「のぅ・・・・風魔、。わしは早くひ孫の顔を見たいんだがのぉ・・・・」




そう言えば、風魔はいつものように無表情に頷く。

それはいつも任務を言い渡すのとなんら変わりない。

そして黒い影は一瞬消え、そのほぼ同時にの悲鳴があがった。

風魔がを抱え込んでいる。



「ちょ、ちょ、何すんの、小太郎!!!」

(任務だ・・・・)

「は?今の任務じゃないでしょ!?お祖父ちゃん〜〜〜〜」

「何を言うとるか、夫婦たる者、子を作るのが当然の義務じゃ!任務じゃ!これは夫婦の任務なのじゃああ〜〜〜〜」

「ちょっ、私を追いこむようなこと言わないでください!!」

「風魔!!!暇をやるから軍神殿のところの温泉でも行ってくるんじゃ!上杉の忍、道案内頼んだぞい!!」






氏政の言葉に、かすがは天井裏から舞い降りた。

風魔は気づいていのようで、なんの反応のないがは鳩が豆鉄砲、もとい佐助が武田信玄の拳を喰らった時くらいに驚いている。





「いいだろう・・・・・案内してやる」

「あの、あのあの、この綺麗なお姉さんは一体!?」

「かすがだ・・・・・私もあのお方と共に温泉に・・・・あああああ!!!」

「ええ、ちょっとかすがさん!?戻ってきて、かすがさーーん!!!」


(相変わらず煩い女だ・・・・さっさと閨に入って黙らせるか)


「ちょっと小太郎・・・・今良からぬこと考えたでしょ!?」

(任務遂行・・・それだけだ)

「だからそれって、任務じゃないーーー!!」

「ねぇねぇ、俺様も一緒に温泉入りたいなーーーかすがー」

「煩い!どこから湧いて出た、緑こけ草!!」

「な、ひどっ!俺様草扱い!?ちゃん慰めてーーーって、風魔!!手裏剣出さないでくれる!?」

(去ね)










喧騒は瞬く間に広がり、城の中を笑いで包む。

氏政はやかましく出かけていく孫娘と三人の忍を見送った。

一人残された氏政は上機嫌で酒を煽る。

その隣に友も、友の影もなかったが、寂しくなどなかった。






「御先祖様・・・風魔・・・・あの子達をどうか、見守って下されよ・・・・」










空には月が浮かんでいる。

その月は優しく、小田原城を淡い光で包んでいた。