紅玉のような紅い目が二つ、まるでの覚悟を見定めるようにじっと動かない。 初めて見る鷹のような鋭い目に、心臓がどくんっと鼓動する。 風魔は笑う。ただ笑う。 「風魔さん・・・・私には何もわからない。貴方が何を望み、何を考えているのか。 きっと貴方の為に私が出来ることなんて何もない。 私が出来るのは、私がしたいと思うことを・・・するだけ。 私は・・・・・・っ!!!」 風魔がの後頭部を掴んだ。 はっと息を吸いこんだ瞬間、口内を蹂躙される。 風魔の舌がの舌の上を滑って、執拗に舌を絡めることを要求する。 それはさっきまでしていた行為に似ていたが少し違った。 荒々しいというよりは熱っぽい、獣のようだと形容するよりは、存外に人らしい行為。 互いの感じる箇所を探し合って、求めるような、まるでこの交配に愛があるかの如く錯覚してしまいそうな。 唾液が混じり合って音を立てる。息をするのすらもどかしくただ求め合うように夢中で舌を吸い合う。 「風魔・・・・さ・・・?」 風魔の手は相変わらずの肌に触れていた。 昂る熱は雫を滴らせながらの足の間から顔を出していた。 けれど風魔は動かない。ただ口を吸い合う行為だけに没頭するかのように。 聞きたくないのだろうか、 私の言葉など届かないのかもしれない。 届くとは、受け取る側の意思があればこそだ。 風魔に受け止める意思がなければ、それはただの音となって宙に消えるだけだ。 互いの領域を侵食する激しい口付けに眩暈が起こる。 ゆらゆらゆらゆら、思考が回り、やがて世界が眩みだす。 「風魔・・・・さ・・ん・・・・私は貴方に・・・・・」 愛を知って欲しい。 それはとても身勝手で風魔にとっては理不尽な感情。 何度同じ事を思っても、言葉にしても、今まで届くことのなかった想い。 いや、届いたのかもしれない。 あの時風魔と交わした心臓への口付けの誓い。 何かが通じ合った気がした。 でもそれは一瞬だった。 風魔は変わった。 乱暴な行為、を侮蔑するような笑み。 どうして・・・・・どうして・・・・・・? あの後、初めて猿飛に会って、それから・・・・・・。 もしかして、 は突如理解した。 それはとても簡単なことだった。何度も、何度も、自身が体験してきたこと。 両親が遊びにきた親戚の子ばかり可愛がった、 仲良しだった友達に別の友達が出来た、 彼氏が別の女と歩いていた、 どんな人間だって必ず持っている感情。 風魔の行動はある意味当たり前の、誰にだって理解出来る感情から生まれたもの。 「風魔さん!!!」 突如叫んだに風魔は訝しげな視線を投げつけた。 言いたいことがいっぱいあるのに、うまく言葉に出来ない、それがもどかしくて涙が溢れる。 もう、の中に恐れや恐怖はなかった。身体の震えも、背筋を凍らせた悪寒も、消え去った。 「私・・・・ずっといるから!!!此処にいる・・・・誰のところへも行かない・・・・・ だってまだ・・・・私、貴方のこと何も知らない・・・・・ 忍じゃない、本当の、貴方を何も・・・・・私は・・・・・・・・・・・・・・・・・」 風魔の持つ忍の力に恐怖した。 その黒い影に怯え、本当の風魔自身を見てはいなかった。 この人はもう愛を知っていた。 知り始めていた。 だから嫉妬、という誰にでも湧き上がる感情を持ったのに、それに気づくことなくただ怯えてしまった。 「私が言ったこと覚えてる・・・・? 私を知った後で、貴方が私のことを抱きたいと思ったら・・・・ 私が貴方を知った後で貴方に抱かれたいと思ったら・・・・・・きっと私達は愛し合うことが出来る」 は風魔の胸板に唇を落とした。 汗でぬるりとした肌に触れれば、どくん、と心臓の鼓動を感じることが出来る。 少し早い、と感じるその音に、風魔も何かを感じてくれているのだろうかと、期待を抱く。 嫉妬という感情の裏にあるものは好意やそれに付属する独占欲。 それが自分に向けられているのを感じる。怖く、なんてない。 この人はいつだって真っ直ぐで、全身全霊で己の感情を表現していた。 それに気付けなかった、恐怖心を抱いたことで見えなかった、本当の風魔の想い。 熱い体温を感じながら、硬い肌を吸い跡を残す。 弐度目の誓い。けれどこれは自身の意思で行われた行為で、あの時とは違う。 「信じてる。貴方を・・・・今、私の目の前に居る貴方を・・・・・」 は長い息を吐いた。 自分の想いを吐きだしたのと同時に、身体の力が全て抜けてしまったかのように力が入らない。 このままだと風魔の成すがままだろう。でもそれでも良かった。 今なら風魔の行為の全てを受け止められる、そう心が確信していたから。 紅い目が、の顔を一瞥し、胸元に埋まった。 ちくりと胸に走る痛み。この痛みも弐度目。 風魔を胸元に抱きこんだまま、は嗚咽した。 顔を上げた風魔が、ちろりと舌を出して頬を伝う涙を一筋舐めとる。 その口が僅かに動く。 『ならば愛とやらを教えてみろ・・・・貴様の一生をかけて』 音無き声は、はっきりとに届いた。 はその言葉に頬笑みながら頷く。 それはこの傾きかけた国で、 月光の中で初めて見せたの本当の笑み。 この、傾きかけた国で、 月夜に照らされた二人の時間が今、ゆっくりと流れ始めた。 |