心は縛られた。








何故、どうして、そんな問いかけは意味を成さない。

ただ、風魔の、あの血に濡れた恐ろしい情景だけが、染みのようにねっとりと頭から離れない。



は血がべっとりと染みついた寝着から血の匂いを感じ、ごほごほと咳きこんだ。

どこで間違えたのかと振り返れば、最初からに違いない。

この世界に来たことが全ての間違い。

最初に逢ったのが風魔だったのが最大の過ち。

でもそれは全ての意思の外でおこった出来事だ。天災、と言ってもいい。

誰を恨めばいいのか、分からない。

居もしない神を恨むには、はあまりにも現実というものに直面し過ぎていた。







「・・ぁ・・・・・」





朝日が昇ると同時に、風魔は姿を消した。

あの出来事から何時間が経ったのだろうか、それすら分からない。

動くことも、考えることも億劫で、身体に染みついた血は既に乾いてしまっていた。

投げ出された身体は指の先まで力が抜けてしまったようで動かない。

今、息をしている、それすら不思議なくらいだった。














眼を閉じる。

脳裏に浮かぶのは、いつもの家、当たり前にいた家族、大好きな友人。

目頭が熱くなり、涙が溢れてくる。

涙が枯れる、なんて嘘だ。

もう、何回、無駄だと知りながら泣いたことだろう。

この泣き声がどこにも届かないように、あの人の声も誰にも届かなかったのだろうか。












「私、なら聞こえたのかな・・・・・・」



存在全てが痛々しい、傷だらけの彼の声を、



「何が言いたかったの・・・・」



ずたずたなった、今の自分なら、



「聞きたい、聞かせて、貴方の声」








何かを一生懸命考えて生きたことなど一度もなかった。

ただなんとなく、社会が、両親が、世間がこうあるべきだと言う道を歩んできただけだった。

生きることが、食べることが、自由に動くことが、呼吸をすることが、当たり前のことだと思っていた。

それが与えらたことを感謝することなど、知らなかった。

感謝すべきことだと、思ったことなどなかった。









「幸せだった、幸せだったのね、私」






知らなかった。

気付かなかった。

考えもしなかった。

ただそこにある日常がどれほど尊く、喜ぶべきものだと、何故当たり前のように思っていたのか。

それを与えられずただ痛みの中に生きる人がいると何故考えもしなかったのか。






互いの胸に刻んだ誓い、愛を教えたいと思った。

それは本当だった。嘘偽りなかった。

けれどそれはきっと、野良猫に餌をあげるような、見下した軽い気持ちだった。

なんて、愚かな。








「風魔小太郎、貴方が知りたい」







思い出すのは鉄の味。黒の装束を真っ赤に染めた風魔の血。

震えるほど怖い、だからこそ知りたい。

誰の意図でもない自分の意思で。









「風魔――――」








枯れた声は確かに、音となって空気に乗った。

その瞬間、黒い影がの目の前に現れた。

は躊躇なくその影に手を伸ばす。










そ  の      手          は










                     確か に 影    を  捕     え 、