愛しい、その言葉が持つ意味は、まだ分からずにいるけれど。












は風魔を、力いっぱい抱きしめた。

両腕でその頭を抱き込んで、己の胸へと誘う。

胸元は風魔の手によって開かれていたけれど、構わなかった。

直に触れる、肌と肌が、互いの存在を確かめるように鼓動する。







「私も・・・まだ、きっと、本当の愛なんて知らない。
だから、二人で・・・・探していきましょう?それは、取引なんかじゃなくて」






もし仮に、二人が愛し合っても、

もしその結果、二人の心が通じ合うことがなくても、





「きっと、得るものは在る。そうでしょう?」






風魔は動かなかった。

否、動けなかった。

敵意も悪意もない、己の心臓を自ら曝け出したの覚悟と、

その、温もりを感じ取ったからだ。

右頬に、の柔らかな乳房が押し付けられている。

体勢を少しずらせば、耳に直接心の臓の音が伝わってくる。

これほど静かな心で、他人の心の臓の音を聞いたことがあるだろうか。

何故、この女は自分を襲った男にこんな言葉を投げかけることが出来るのだろうか。








「私は・・・・貴方のことが知りたい。貴方にも、私を知って欲しい。
そしてもし、私を知った後で、貴方が私のことを抱きたいと思ったら・・・・
私が貴方を知った後で貴方に抱かれたいと思ったら、その時は・・・・」








その言葉を最後まで聞く前に、風魔はの心の臓の位置に吸いついた。

甘噛みしながら、紅い跡を残す。

そしての拘束をゆっくりと解き、己の服を裂き左胸を露出した。





「風魔さん・・・・?」






鍛えられた逞しい胸板がの眼前に押し出される。

戸惑い風魔を見れば、風魔もまた真っ直ぐにを見据える。

その瞬間、は風魔の意図を理解した。







「ふう、ま、さん・・・・・」






ゆっくりと、ゆっくりと風魔の心臓の位置に唇を寄せる。

硬い肌に吸いついて、風魔の生きている証である鼓動を直に感じた。





の唇が離れた後、風魔の胸元に同じく紅い跡が付いた。

おそらくこれが言葉を発することのない風魔の、誓いの証なのだとは思った。

風魔は己の胸板との胸を見比べると、身体を完全に起こし、の乱れた衣服を素早く整え、

風の如くその姿は消え去った。




「風魔さん!」













後に残されたは、今更ながら身体を襲う震えに己の身体を抱え込んだ。

怖かった。怖くて怖くてたまらなかった。

けれどそれ以上に、あの人が、


寂しくて、

悲しくて、

愛おしい、と



そう、思ってしまった。










あの人はきっと、人が人として当たり前に受けるはずの愛情を、知らずに生きてきた。

いや、きっと、あの人だけが特別じゃないんだ。

この時代には、きっとそんな人がたくさんいる。

たまたま最初に出会った人が、あの、風魔小太郎だった。

けれどそれにこそ、何か意味があるのかもしれない。








流れる涙は決して、同情なんかじゃない。

不安も、恐怖も、消え去ってはいない。

けれど、それ以上に、あの人を変えたい、そんな使命感にも似た感情が心の奥底から湧き上がってくるのを感じる。








そっと、自分の胸に手を添える。

きっと私は此処で本当の愛を知ることが出来る。

もう、知り始めている。

けれど私は、












私は、あの人に本当の愛を教えることが出来るだろうか。