違う、それは、愛なんかじゃない。








そう伝えたかった。

そう伝えなくてはいけなかった。


けれど身体は動かない。

まるで磔の蝶のように床に縫い付けられてしまったから。

押さえつけれたびくともしない腕に歯がゆさが増す。


今、今伝えなくてはいけない。

そんな気がする。事が終ってからでは遅過ぎる。

傷つくのは自分だけじゃない。きっと、この人も。









「風魔さ・・・・、違っ・・・の、」

「・・・・・・・・・・」






首筋に舌の感触を感じる。

ビリっ、と感じる痛み、キスマークなんて生易しいものじゃない。

本当に血が出ているんじゃないかと思うくらいの、歯の感触。

泣いたらダメ、泣いたらきっと伝えたいことも伝えられなくなる。

そう思うけど涙が、止まらない。どうしようもなく怖くて。

嗚咽が、しゃくりをあげて声が、うまくでない。

重なった肌から感じる熱はこんなにも熱いのに、肌に寄せられる唇は冷たくて。

求められているのか、拒絶されているのか、それすらも分らない。





「ふう、ま・・・っ、さん・・・ちが、うのっ・・・・・」




それでもどうしても伝えたくて。




「いっ、ぽう、てきじゃ、ダメ、なのっ・・・」




この人はきっと真っ白な、子供と一緒なんだ。




「おもい、あって、はじっ、めて・・・・あいに、なる・・・から・・・」




一番大切なことを誰にも教わってない。




「だ、から、・・・ふぅ・・・ま、さん・・・ちがう、の・・・」





掠れた声で訴える。

私の寝着の帯を解いていた手が、止まった。

はじめて、目が合う。

はじめて、正面から風魔小太郎と向き合う。













『――――ならば、どうすればいい――――』












瞳の奥の光に、そう、聞かれた気がした。























目の端で、蝋燭の炎が揺らめく。

聞かれた、その答えを、私は持っていなくて、

けれどいま、今、伝えなくては、きっと、この人には伝わらない。







「ふ・・うま、さん・・・・・・」







拘束されていた手が、わずかに緩められた。

もう痺れて感覚のない右手で、彼の頭を引き寄せる。

噛みつくように、唇を重ねて、





「わたしが、あい、して、あげる」






彼の眼が見開かれる。

その瞬間、

理解、した。










――――私はきっと、この為に、この時代に来た――――