それは一瞬にして起こった。


この世の全ての現象に意味があるのだとしたら、


一体これは誰の意図なのだろう。




首には見たことの無い刃物が突きつけられている。


目の前には奇妙な格好をした男が一人。

兜のようなもので顔は見えないが、顔に紅線を引いている。

彼は黙して動かず、私は恐怖で動けない。

目の前には小田原城、空には鷹のように大きな鳥が何かを知らせるように弧を描いて飛んでいる。



カメラが趣味であるが小田原城の写真を撮りに城跡を訪れたのは急な思い立ちだった。

初めてのボーナスで買った一眼レフカメラで何を撮ろうか、と考えて思い浮かんだのは故郷自慢の城。

小田原城天守閣など見慣れたものだったが、東京の大学へ進学してそのまま就職して2年余り。

ほとんど帰ること無い故郷が、恋しくなってしまったらしい。

その思い付きが仇になったのだろうか。


うっかり脇道から林の中に入り込んで、けれど空に向かってそびえ立つ小田原城が在れば道に迷うことなど在りえない。


迷うことなど有り得ないという自信からそのまま林の中を進んでいく。

こんな場所があっただろうか?そう思いながらも足は止まらない。

久しぶりに感じた緑の匂いに夢中でシャッターを切り、そして、



どうしたのだろうか?




それから先がよく思い出せない。

突然竜巻のような激しい風が吹いて、目をつぶった瞬間感じたのが首筋の痛みだった。

手にはまだしっかりとカメラが握られている。

すぐ目の前には男が居る。





は気を失った。